赤星 寛子 (♀): 新垣 博哉/翔太 (♂): 喜戸 泉 (♂): 奥 要 (♂): 右京 朗/エヌビの本 (♂or不): 牧田 知花/ラグジュの本 (♀): 湯越 篤之/お客 (♂): |
涼介(篤之)語り 「昔から 日中は多くの利用者でごった返す住民のコミュニティのひとつで、一見何の変哲のない場所だ。 事件が起こった形跡もなく、定期的にリフォームされているだけあって綺麗なつくり。如何わしさは感じられない。 なのに、闇夜に包まれた途端、 しかし、それを確認したものは、蕪木寮には戻ってきていない。この奇妙な現象を、まだ僕たちは知らない」 翔太 「近所の図書館あるじゃん?そこで、深夜に不気味な 涼介(篤之) 「へえ、まるでお化け屋敷みたいだな。どうだ?暑さしのぎに行ってみないか?」 翔太 「おう、面白そうだな。行って見よう!」 |
――寛子とゆりえ、学内文化祭会場へ着く ゆりえ 「(ひそひそ声)あ、もう始まってる。後ろの方でこっそり見ようよぉ」 寛子 「(ひそひそ声)うん」 ゆりえ 「(ひそひそ声)よいしょっと。あー、今年も劇やってんだぁ〜。 しかも、あれ手芸部部長の弟だよねぇ。向こうで小さく黄色い声が聞こえる〜」 寛子 「(ひそひそ声)手芸部部長……って、もしかして湯越くんの弟?失礼だけど、雰囲気全くもって正反対ね」 |
翔太 「……暗くなったら、図書館周辺って物騒な雰囲気に変わるもんなんだなぁ」 涼介(篤之) 「でもさ、それをこの目で見た人間ってどれくらいいるんだ?俺らが住んでる蕪木寮でしか 図書館の話が広まってないなんて、胡散臭すぎるだろう」 翔太 「まぁ何。所詮、噂は噂。気分転換にはいいよ。ここ最近、暑くって勉強に集中できないしさ」 涼介(篤之) 「おまえは、単純にサボリたいだけかよー」 翔太 「は?そうだよ。そして、おまえはそのサボりのおもりな」 涼介(篤之) 「はいはい、分かりましたよ。……よし、忍び込むぞ」 ――薄気味悪い音をたてて、図書館の扉が開く 涼介(篤之) 「……ん。中は暗いなぁ。翔太、ライトつけるぞ」 エヌビの本 「おや、おやおやおやおや。こんな遅くに人がやってきたよ」 ラグジュの本 「なぁに、人を見るのがそんなに珍しい?」 エヌビの本 「珍しいよ。ここ数年は見かけてなかったよ」 ラグジュの本 「寝かぶっていただけでしょう?知ってるわよ、太陽の光で体が痛むようになったそうじゃない」 エヌビの本 「きっと、昔の傷が ラグジュの本 「そう…。ちょっと脅かしてみよっか」 ――ラグジュの本が薄気味悪く笑う 涼介(篤之) 「……お、笑い声が聞こえてきたな」 翔太 「は!?ま、まじかよ。俺は一切聞いてないぞ??」 涼介(篤之) 「いーや、しっかり聞いたね。おまえも聞き耳を立ててみたらいい」 翔太 「……?」 ラグジュの本 「(笑いながら)いらっしゃい、人間のお兄さん?」 翔太 「なっ、なん、なんだ?」 エヌビの本 「怖がらないで。僕らはなにもしない。ここに存在しているだけ。な、スペルの本?」 スペルの本(要) 「そうですね。100%存在していることだけは相違ないはずです。 私の分析によれば、人間がこの時間帯に現れるのは8年と2ヶ月、32秒ぶりです」 ラグジュの本 「あんたっていちいち細かいわよねー」 エヌビの本 「全くだ」 |
ゆりえ 「(ひそひそ声)あ、寛子。要が劇に出てるよぉ」 寛子 「(ひそひそ声)ん?そんなまさか……ほ、本当ね?」 ゆりえ 「(ひそひそ声)忙しかったのはこのせいなのかなぁ」 寛子 「(ひそひそ声)かもね〜」 ゆりえ 「(ひそひそ声)しかも、台本をこっそり持ってるのバレバレだぁ 。辞書に隠してるみたいだけど」 寛子 「(ひそひそ声)ふふっ、ほんとね。……あ、喜戸くん?どうしたの?」 泉 「(ひそひそ声)先ほどは片付けすみません〜。要先生からの伝言で 美術部部員用の席を用意しているそうなので、そちらに移動していただけませんか? ステージとは反対側…入り口側の階段から移動できるそうですので」 ゆりえ 「(ひそひそ声)ほえほえ、了解〜」 寛子 「(ひそひそ声)……?うん、今から行くね」 泉 「(ひそひそ声)きっと、びっくりしますよ。そちらのほうが劇もじっくり見れますしね!」 |
スペルの本(要) 「それで、人間。君たちは何のために、この図書館までやってきたのですか?」 涼介(篤之) 「いや、俺はこいつの付き添いで来たんです。だから、こいつに聞いてください」 翔太 「なんで俺に押し付けるんだよ。というか、どっち向いて話を聞いたら…!」 エヌビの本 「そこの本棚。わかるかな、僕らは本だ。しかし、違うのは君らと元々同じ存在だったってことだ」 涼介(篤之) 「同じ…存在?」 スペルの本(要) 「そうですね。私たちは同じ存在。何せ、人の心が宿ることで"生きている"本だ。 この世界には 私たちが人間だと主張しても違和感はないでしょう」 翔太 「……」 涼介(篤之) 「……」 ラグジュの本 「違和感があるって言いたいらしいわよ。この子たち」 翔太 「いや、そんなことは……」 エヌビの本 「今更だな。何か他に言いたそうな顔をしている。僕たちの存在に疑問を持っているんだろうな」 涼介(篤之) 「………。その、通りです。だけど、なぜ人間の心が本に宿っているのかと……」 スペルの本(要) 「人というものは、寿命以外でも天に召されることがあるらしいですね。 不慮の事故や病気、そして何らかの理由による自害。……しかしながら、この世に居座り続ける魂がある。 ラグジュの本 「つまり、死んでも死にきれなかった魂が私たち、っていうわけ」 翔太 「本じゃなくても、良いんじゃないですか?」 エヌビの本 「は?君は何が言いたいの?本には強力なパワーがあるんだよ」 翔太 「パワー?」 スペルの本(要) 「そう。つまりですね、言霊ってありますよね。言葉に宿る呪力。本には、多くの言葉の羅列が詰まっている。 それら、一つ一つが絡み合うことで、力を蓄積していく。 そして、時が経てば経つほど、印字された言葉は紙に馴染み、空間と融合するのです」 ラグジュの本 「その融合したものが、人の"癖"のある魂を呼び寄せてしまうってわけよ」 翔太 「なるほど……」 涼介(篤之) 「すごい仕組みだなぁ……。あともうひとつ、気になることがあるんですけど、なぜ俺たちの前に現れたんです? 隠れていれば俺たちに見つからなかったのに」 ラグジュの本 「なぜ、現れたかって?それは……そうね。ここの本棚の子たちが、寂しがっているのよね。『人の魂が欲しい』って……」 翔太 「お、俺はごめんだからな!まだ生まれて16年、まだまだやりたいことなんて 言葉で言えないくらいたくさんあるんだよっ!それなのに、ここで、こここ殺されるなんて、それだけは勘弁だ!」 エヌビの本 「そんなこと言ってないじゃないか。俺らの話くらい聞いてくれるだけで、苦しませることなんてないよ?」 涼介(篤之) 「本当…ですか?それは」 エヌビの本 「ああ、本当だ」 涼介(篤之) 「話は聞きますけど、そちらには行きませんから。あと、こいつも」 翔太 「り、涼介ぇ〜!」 スペルの本(要) 「人であるのに、悲しみを知らないような者たちですね。いいでしょう、一度、心して味わうといいですよ!」 |
泉 「どうでしょう。ここなら見やすいでしょう?しかも大声ださなければ、ステージに響かないですし!」 ゆりえ 「ほえー。良いところに案内されちったぁ。スイートルームちっくかな?」 泉 「かもですねぇー!」 博哉 「喜戸、ちょっとうるさいよ」 朗 「声のトーン少し落とすだけでいいんだ、気をつけろ」 泉 「はい…」 寛子 「………ここって、確かにいい席かも。あとで要先生に言っておかないとね」 泉 「ですねぇ。それにしても、要先生が、敬語でしかも、悪役って貴重ですよね」 ゆりえ 「確かに!役作りで黒縁めがねっていうのが面白いよねぇ」 寛子 「それに、恥ずかしいはずなのに結構それっぽいからすごいよね」 泉 「きっと、演技の才能があるのですよー!よく通る声ですしね、劇団とか薦めてみましょうか!」 博哉 「きっとまたお前、叱られるな。要先生に」 泉 「えー!そんなことはないですよー!こんな俺ですけど、要先生は尊敬してますからね!尊敬ゆえのコメントですから!」 |
涼介(篤之) 「これは……辛く悲しかった思い出……なのか?中学校時代の暴力、大学受験失敗による両親の態度 社会人になって誰も守れなかった自分……輝けない自分が悔しくてこの人は命を絶ったのか。 こっちは、あまりに能力が高くなりすぎて、プライドと人間関係に苦しんだ人だ……」 翔太 「く、苦しい……!生きるってこんなに息苦しかったっけ……?もっと楽しく生きていけるもんだと思ってた……。 でも、俺、この苦しみに耐えられそうにない……!」 涼介(篤之) 「いや、翔太耐えるんだ…!きっとこれに耐えられなかったら、あの本たちのおもちゃになってしまう…!! そしたら、もう夢を叶えることも、人生を純粋に楽しむことだって……できやしない……!」 エヌビの本 「そうだ。もっと苦しむがいいさ。人生の辛さはどんなものより、耐え難い。 立ち向かおうとしても、立ちはだかる壁は高すぎる!」 ラグジュの本 「さっさと諦めなさいよ!嫌なことばかりで、もう何もかにもやめたいんでしょ?その方が楽よ。逃げなさい?」 翔太 「そ、そう…しよう…かなぁ……。俺、もう限界が……」 涼介(篤之) 「(翔太を叩く)お前は馬鹿か!何が、限界だよ。人生って全部が全部薔薇色で煌びやかで楽しいのかよ!?」 翔太 「そっ、それは……」 スペルの本(要) 「もちろん楽しくありませんよ。人生なんて。 苦しみの後の楽しみがあるなんて言いますけど、その楽しみってどれほどのものです?」 涼介(篤之) 「無限大…です。数字で表現できた人に会いたい…くらいです。ものさしで計れるほど、単純なものではないですから…!」 スペルの本(要) 「はぁ、人間は綺麗ごとが好きですね。しかも、目先のことしか見えていない頭でっかちです」 エヌビの本 「どこまで、人生の苦しみに耐え切るかな?………なっ!?」 ラグジュの本 「人間が、苦しみに打ち勝った……なんて!」 スペルの本(要) 「!そんなことが、ありうるとでも言うのですか!?」 翔太 「………た、助かったぜ……。山田」 涼介(篤之) 「ふん、無事で何よりだよ」 エヌビの本 「な、なぜ……本に取り入れられなかったんだ……」 涼介(篤之) 「ん?簡単ですよ。人生はそんな出来上がった存在じゃないからです。 人生は楽しいです、本当。上手く自分の思ったとおりのことができれば、確かに素敵だと思います。 でも、苦しみはつきもの。たまに上手くいかないことがあったり もしくは常に上手くいかなかったりするなんて、誰だってあります。 今が幸福な人だって、昔はホームレスで死と隣りあわせだったなんてことがあっても、なんら不思議じゃない」 ラグジュの本 「そんな……そんな単純なことだった……か?」 翔太 「……思ったより単純だったよ。なぁ?ただ俺たちが知らずにいただけだったんだ……」 エヌビの本 「それになぜ僕たちは気づかなかったんだ……」 涼介(篤之) 「さあ、どうしてでしょうね。……暗闇に隠れているばかりだからじゃないですかね」 スペルの本(要) 「暗闇……に?ですか」 涼介(篤之) 「そう。光を怖がって、ひたすら暗闇に身を隠すのを何十年、何百年も続けていたら暗闇で生きるほかない。 それなのに、いつかは光を見たいと望みつつ生きていたら、光を怖がるだけでなく 何もかもを恐れるようになってしまったんじゃないですか? 人間だった頃の後悔が、本になった自分にすら重石になって……」 エヌビの本 「ふざけるな!!人間だった自分に後悔なんて……後悔なんて……!!」 ラグジュの本 「はい、ストップ」 エヌビの本 「なっ……!人間に肩を持つ気か!?」 ラグジュの本 「残念ながら、そうね」 エヌビの本 「……!」 スペルの本(要) 「………私たちの負けです。というより、私たちは嘘をついていました」 翔太 「嘘って…?」 スペルの本(要) 「人間であったことを、本当は誇りに思っていました。なのに、何もできなかった自分が憎く 本になったことで、人間時代に犯した失敗を全て隠してしまおうとしていました。本当に申し訳ありません」 涼介(篤之) 「謝る必要なんてないです。俺はまだほんのわずかな年月しか生きていないから 皆さんの辛さを身を持って体感しないと理解できなかった。きっと、仲間が欲しかったんですよね?」 エヌビの本 「……そ、そうだな。僕は、寂しかった……。だから、本になりさえすれば こんな気持ちから解き放たれるなんて甘いことを考えていた。 だけど、わかったよ。もう寂しくないよ、君たちみたいな人間に出会えたから――」 スペルの本(要) 「ありがとう…ございます」 ラグジュの本 「ありがとう…ね」 ――本から魂が飛び出していく演出 翔太 「なっ!ほ、本から光がぁ……!!」 涼介(篤之) 「く、眩しい……!!」 ――暫く経って、光が消える演出 翔太 「これって、もしかして本に宿った人たちが成仏したってことなのかな……」 涼介(篤之) 「かもしれないな……」 涼介(篤之)語り 「こうして、蕪木寮では図書館の不思議が語られることはなくなった。 怪しい風情がなくなった図書館では、静かに野鳥が鳴く。 彼らは、本になってしまった人間の嘆きを毎日聞いていたのだろうか――」 |