ろこもこゆーすふる〜美術部の日々〜

  第8話 文化祭末日 共同演出(仮)



new→《当台本を利用してくださってる方へ》




垣本 ゆりえ(かきもとゆりえ)女 高校3年生
明るく元気なスポーツ系天然娘。
中学時代は陸上部のキャプテンとして県内の大会を総なめにするほどの実力があったが
ひょんなことから美術部に入部したらしい。
朗には特に信頼されている。


赤星 寛子(あかぼしひろこ)女 高校3年生
美術部部長。基本的には、真面目な姉さん気質。
某有名芸術大学を目指し勉学に奮闘中。
絵は天才的に上手いといえばそうだが、色彩センスだけは素人が見てもまるでない。
ゆりえ曰く、抹茶色に赤紫を合わせてしまうほど。


新垣 博哉(にいがきひろや)男 高校2年生
次期部長候補。見た目は爽やかな真面目な青年。
恐らく部で一番の常識人。しかし、女性陣の勢いに毎度負けている。
さらに、泉のテンションについていけず若干苦手意識がある。
※劇中劇の翔太役(別人)と被りです。


喜戸 泉(きどいずみ)男 高校1年生
今年の新入生。パワフルで熱い青年。
本人は至って真剣なのだが、よく周りには変人扱いされる。
実はそれには彼の趣味に問題があるかららしい。
その趣味とは、被服(衣装デザイン)である。
理由が不可解だが、彼も第1話で入部を決めた。


奥 要(おくかなめ)男 27〜29歳くらい 教師
美術教師で美術部の顧問。
普段は涼しげな顔をしていて何を考えているのか分からないが
中身は完全なる熱血教師。
そして、話し出すと意外とおしゃべりで本人無自覚であるがナルシストでもある。
ちなみにボケもツッコミもでき、スルースキルが高い。
※劇中劇で、スペルの本を要自身が演じます。(素人っぽさを出してください)


右京 朗(うきょうほがら)男 高校2年生
童顔で実年齢よりも幼く見られ、男扱いしてもらえないのが悩みの青年。
そのため、自分=女というキーワードにやたら敏感。
男らしく振舞おうとしているが、微かに小心者の要素が見え隠れしている。
一度退部していたが、第3話で踏ん切りがつき再入部を果たした。
ゆりえを尊敬しているが、泉に少々厳しい。
※劇中劇のエヌビの本役(別人)と被りです。


牧田 知花(まきたちか)女 高校3年生
口から生まれたようなお喋り少女。ゆりえの幼馴染。
あらゆる噂・ニュースが大好きで、かなりのミーハー。
落ち込んでも次の瞬間けろっとしているくらい感情の切り替えが早い。
※劇中劇のラグジュの本役(別人)と被りです。


湯越 篤之(ゆごしあつゆき)男 高校2年生
手芸部部長である晴久の年子の弟。正義感のあるリーダータイプ。
ひょろっとしている兄とは反対に、水泳部に所属しているせいか健康的。
今回は初登場にして、涼介役で演劇のみの登場。
※冒頭のお客(別人)と被りです。






5:3:0若しくは4:3:1台本(所要時間約30分)

<キャスト>
垣本 ゆりえ          (♀):
赤星 寛子            (♀): 
新垣 博哉/翔太      (♂):
喜戸 泉            (♂):
奥 要             (♂):
右京 朗/エヌビの本 (♂or不):
牧田 知花/ラグジュの本 (♀):
湯越 篤之/お客      (♂):



※今回は、劇の中に演劇があります。
  演劇の部分は背景色を入れていますので、そちらで見分けてください。

※また、「生徒」は要と知花役以外の台詞となります












<前回までのあらすじ>

泉ナレ 「おおっと!?今回も重役を任されてしまいました喜戸です!
     素晴らしい先輩に囲まれ、小さいながらも頑張っております美術部。
     前回は高校生活のメインイベント、文化祭で、俺が協力したファッションショーのお話でありました!
     いやはや、桐林[きりばやし]先生のセンスはピカイチですね!もう[ほがら]先輩とか――(割愛)
     という訳だったんです!今回は文化祭も後半戦、張り切っていっちゃいましょうか!」



◆美術部部室 14:30分ごろ

寛子 「――お待たせしました。似顔絵、こちらになります」
お客 「おお、とても高校生が書いたとは思えないな…。時間なかったのにありがとうね!」
寛子 「いえいえ、書かせていただきありがとうございました。また本校の文化祭にいらしてください」
お客 「うん、ではまたね!」

――暫く静かになる部室

「(息が聞こえるくらいの大きな深呼吸)」
ゆりえ 「皆、お疲れぃ!」
部員全員 「お疲れ様でしたー!!」
「いやぁ、最後の締めくくりが部長だったから、何か壮大感を感じましたねー!『お待たせいたしました』なーんて
   かっこいいのなんの!…ってかっこいいに決まってるではないですかーっ!!」
「おまえ、テンションずば抜けて高いな。……でも、本当に今年の文化祭は終わってしまったんですね」
ゆりえ 「んや、ほがらん、学内文化祭が残ってるよ〜」
「あ……。学内文化祭か!」
博哉 「今年はなんだっけ、3時からだから30分で片付けしないとな」
「(時計を見て)あの時計10分遅れているな」
寛子 「10分ですか。あー、じゃあ片付け間に合いそうにないですね」
「いや、簡単でいい。続きは次回の部活でやってもらって構わないから」
寛子 「わかりました」
「…っと、それと、俺はちょっと生徒会の方にも顔を出さんとならんから、片付けはお前たちで頼むな。では」
「了解でーす!」
ゆりえ 「最近、要忙しそうだね〜。結構美術部のこと手伝ってくれてたけど、生徒会にも手伝いに行ってたんだねぇ」
博哉 「そうみたいですね。それなのに、文化祭のために絵も提供してくれて、今年もにぎやかな部室になりましたしね」
「今年は、合同画も描いたけど、なんだかそれとは違う風格も感じるしなぁ。…………あれ、おかしいな」
「え、この要先生の絵ですか?」
「いや、違う」
寛子 「…………ご、合同画がない!」
「ああああ!ホントですね!」
ゆりえ 「ほんとだ〜!」
博哉 「というか、初日は飾ってあったけど、今日は朝からなかった気がしないか」
「そ、そうだったかもしれない……」
寛子 「と、盗難…!?いや、こんな小さな美術部で描いたような代物を持っていくようなお客様なんていないし……。どうしよう……」
「準備室とかにしまってたりしませんかねー?」
博哉 「文化祭用に飾りつけしてあるから、そっちにしまってるってことはないような」
寛子 「(ため息)……私、施錠してたよね?」
ゆりえ 「私見てたよぉ」
「僕も見ていたので、鍵の閉め忘れのせいではないと思いますよ」
寛子 「そうだよね……」
ゆりえ 「まぁまぁ、盗まれてないって!根拠はないけど、プラスに考えるだけ違うよ?
     んでもって、時間ないから、私と寛子以外は、学内文化祭の会場にGO!GOだよ!」
博哉 「手伝いますよ?学内文化祭間に合いますし」
ゆりえ 「いいから、いいからぁ」
博哉 「わ、わかりました。じゃあ、皆行くか?」
「お、おう」
「女性だけで片付けなんて、危ないです!ここは自分が…っ!」
寛子 「大丈夫。喜戸くんには来週手伝ってもらうから」
「うむむむ!了解しましたですよー!」
博哉 「じゃあ、よろしくお願いします」

――ドアが閉まる

寛子 「………クラスの手伝いをしている、[らい]大辰[おおたつ]さんを疑うわけにはいかないし……。まさかこんなことになるなんて……」
ゆりえ 「寛子。こんなことで落ち込んじゃダメだよ?あ、こんなことっていうか、こんなことじゃないけど!」
寛子 「……」
ゆりえ 「私ね、美術部に入ったのって、弟のこともあるんだけど、寛子が描いてる絵を見て、いいなぁ〜って思ったからなんだぁ」
寛子 「……え?」
ゆりえ 「もちろん、下手くそだってわかってるよ。でも、どうしても美術部で寛子みたいに
     自由自在に絵を描きたかったんだぁ。だからこうやって、美術部で活動してる」
寛子 「そうだったの……。あんた、スポーツできるからスポーツ1本でいけば良いのにって、思ってたのに」
ゆりえ 「いいよ。スポーツは趣味で、ボランティアで。楽しかったら、それでいいんだよぉ。
     そう、なので、寛子は元気出さないとね!私が今、元気なのも、寛子のおかげなんだから」
寛子 「ゆりえ……。うん、元気出すよ。ありがとう」
ゆりえ 「どういたしましてっ!」

――互いに笑いあう

寛子 「……あ、そろそろ時間じゃない?」
ゆりえ 「あ!間に合うかなぁ?よし、行こうっ!」
寛子 「ちょ、ちょっと待って、私そんなに早く走れないって!」



◆学内文化祭用ステージ

知花 「皆さーん!こーんにちはぁー!」
生徒 「………」
知花 「あれ?声の調子が悪いのかなぁ〜?もっかい、言ってみよう!こーんにちはぁー!!」
生徒 「(一瞬渋るも大きく)こんにちはー!」
知花 「おお?よくできましたー!はい、わたくし、放送部に所属しております3年の牧田知花と申します!
    これから学内文化祭の司会として、ぐいぐいっと進行していきたいと思いますので、よろしくお願いしまーす!
    さてさて、文化祭はいかがでしたか?思い出が残るような取り組みができましたか?
    笑ったり、泣いたり、叫んだりしましたか?どうだったとしても、皆さんの心に素敵な宝物として大切にされることと、思います。
    (咳払い)そして、今から本校の世紀の大イベントといたしまして、生徒と先生混同で演劇を披露することに相成りました!」
生徒 「(ざわざわしている)」
知花 「ふふんっ。びっくりしたでしょー?周りを見渡してみましょう
    きっと人気者の子や、演技が上手な子がいないかもしれません!
    そんな『彼・彼女ら』と、『先生』による不思議で深〜い物語の世界に迷い込んでみましょう!
    ではでは、題目は『文字のささやき』です!どうぞ!」

――ステージの幕が上がる

涼介(篤之)語り 「昔から蕪木[かぶらぎ]寮で語られる不思議な夜の図書館。
           日中は多くの利用者でごった返す住民のコミュニティのひとつで、一見何の変哲のない場所だ。
           事件が起こった形跡もなく、定期的にリフォームされているだけあって綺麗なつくり。如何わしさは感じられない。
           なのに、闇夜に包まれた途端、魑魅魍魎[ちみみょうりょう]伏魔殿[ふくまでん]となる。
           しかし、それを確認したものは、蕪木寮には戻ってきていない。この奇妙な現象を、まだ僕たちは知らない」

翔太 「近所の図書館あるじゃん?そこで、深夜に不気味な[うめ]き声や笑い声を聞いた人が結構いるらしいぞ」
涼介(篤之) 「へえ、まるでお化け屋敷みたいだな。どうだ?暑さしのぎに行ってみないか?」
翔太 「おう、面白そうだな。行って見よう!」


――寛子とゆりえ、学内文化祭会場へ着く

ゆりえ 「(ひそひそ声)あ、もう始まってる。後ろの方でこっそり見ようよぉ」
寛子 「(ひそひそ声)うん」
ゆりえ 「(ひそひそ声)よいしょっと。あー、今年も劇やってんだぁ〜。
     しかも、あれ手芸部部長の弟だよねぇ。向こうで小さく黄色い声が聞こえる〜」
寛子 「(ひそひそ声)手芸部部長……って、もしかして湯越くんの弟?失礼だけど、雰囲気全くもって正反対ね」


翔太 「……暗くなったら、図書館周辺って物騒な雰囲気に変わるもんなんだなぁ」
涼介(篤之) 「でもさ、それをこの目で見た人間ってどれくらいいるんだ?俺らが住んでる蕪木寮でしか
        図書館の話が広まってないなんて、胡散臭すぎるだろう」
翔太 「まぁ何。所詮、噂は噂。気分転換にはいいよ。ここ最近、暑くって勉強に集中できないしさ」
涼介(篤之) 「おまえは、単純にサボリたいだけかよー」
翔太 「は?そうだよ。そして、おまえはそのサボりのおもりな」
涼介(篤之) 「はいはい、分かりましたよ。……よし、忍び込むぞ」

――薄気味悪い音をたてて、図書館の扉が開く

涼介(篤之) 「……ん。中は暗いなぁ。翔太、ライトつけるぞ」
エヌビの本 「おや、おやおやおやおや。こんな遅くに人がやってきたよ」
ラグジュの本 「なぁに、人を見るのがそんなに珍しい?」
エヌビの本 「珍しいよ。ここ数年は見かけてなかったよ」
ラグジュの本 「寝かぶっていただけでしょう?知ってるわよ、太陽の光で体が痛むようになったそうじゃない」
エヌビの本 「きっと、昔の傷が[うず]きだしたんだよ。今に始まった話じゃないよ」
ラグジュの本 「そう…。ちょっと脅かしてみよっか」

――ラグジュの本が薄気味悪く笑う

涼介(篤之) 「……お、笑い声が聞こえてきたな」
翔太 「は!?ま、まじかよ。俺は一切聞いてないぞ??」
涼介(篤之) 「いーや、しっかり聞いたね。おまえも聞き耳を立ててみたらいい」
翔太 「……?」
ラグジュの本 「(笑いながら)いらっしゃい、人間のお兄さん?」
翔太 「なっ、なん、なんだ?」
エヌビの本 「怖がらないで。僕らはなにもしない。ここに存在しているだけ。な、スペルの本?」
スペルの本(要) 「そうですね。100%存在していることだけは相違ないはずです。
           私の分析によれば、人間がこの時間帯に現れるのは8年と2ヶ月、32秒ぶりです」
ラグジュの本 「あんたっていちいち細かいわよねー」
エヌビの本 「全くだ」



ゆりえ
「(ひそひそ声)あ、寛子。要が劇に出てるよぉ」
寛子 「(ひそひそ声)ん?そんなまさか……ほ、本当ね?」
ゆりえ 「(ひそひそ声)忙しかったのはこのせいなのかなぁ」
寛子 「(ひそひそ声)かもね〜」
ゆりえ 「(ひそひそ声)しかも、台本をこっそり持ってるのバレバレだぁ 。辞書に隠してるみたいだけど」
寛子 「(ひそひそ声)ふふっ、ほんとね。……あ、喜戸くん?どうしたの?」
「(ひそひそ声)先ほどは片付けすみません〜。要先生からの伝言で
   美術部部員用の席を用意しているそうなので、そちらに移動していただけませんか?
   ステージとは反対側…入り口側の階段から移動できるそうですので」
ゆりえ 「(ひそひそ声)ほえほえ、了解〜」
寛子 「(ひそひそ声)……?うん、今から行くね」
「(ひそひそ声)きっと、びっくりしますよ。そちらのほうが劇もじっくり見れますしね!」


スペルの本(要) 「それで、人間。君たちは何のために、この図書館までやってきたのですか?」
涼介(篤之) 「いや、俺はこいつの付き添いで来たんです。だから、こいつに聞いてください」
翔太 「なんで俺に押し付けるんだよ。というか、どっち向いて話を聞いたら…!」
エヌビの本 「そこの本棚。わかるかな、僕らは本だ。しかし、違うのは君らと元々同じ存在だったってことだ」
涼介(篤之) 「同じ…存在?」
スペルの本(要) 「そうですね。私たちは同じ存在。何せ、人の心が宿ることで"生きている"本だ。
           この世界には[]み嫌われる存在ではあるが、それも人とて同じ。
           私たちが人間だと主張しても違和感はないでしょう」
翔太 「……」
涼介(篤之) 「……」
ラグジュの本 「違和感があるって言いたいらしいわよ。この子たち」
翔太 「いや、そんなことは……」
エヌビの本 「今更だな。何か他に言いたそうな顔をしている。僕たちの存在に疑問を持っているんだろうな」
涼介(篤之) 「………。その、通りです。だけど、なぜ人間の心が本に宿っているのかと……」
スペルの本(要) 「人というものは、寿命以外でも天に召されることがあるらしいですね。
           不慮の事故や病気、そして何らかの理由による自害。……しかしながら、この世に居座り続ける魂がある。
           [うら]み、憎しみ、[ねた]み、なんらかの無念……」
ラグジュの本 「つまり、死んでも死にきれなかった魂が私たち、っていうわけ」
翔太 「本じゃなくても、良いんじゃないですか?」
エヌビの本 「は?君は何が言いたいの?本には強力なパワーがあるんだよ」
翔太 「パワー?」
スペルの本(要) 「そう。つまりですね、言霊ってありますよね。言葉に宿る呪力。本には、多くの言葉の羅列が詰まっている。
           それら、一つ一つが絡み合うことで、力を蓄積していく。
           そして、時が経てば経つほど、印字された言葉は紙に馴染み、空間と融合するのです」
ラグジュの本 「その融合したものが、人の"癖"のある魂を呼び寄せてしまうってわけよ」
翔太 「なるほど……」
涼介(篤之) 「すごい仕組みだなぁ……。あともうひとつ、気になることがあるんですけど、なぜ俺たちの前に現れたんです?
         隠れていれば俺たちに見つからなかったのに」
ラグジュの本 「なぜ、現れたかって?それは……そうね。ここの本棚の子たちが、寂しがっているのよね。『人の魂が欲しい』って……」
翔太 「お、俺はごめんだからな!まだ生まれて16年、まだまだやりたいことなんて
    言葉で言えないくらいたくさんあるんだよっ!それなのに、ここで、こここ殺されるなんて、それだけは勘弁だ!」
エヌビの本 「そんなこと言ってないじゃないか。俺らの話くらい聞いてくれるだけで、苦しませることなんてないよ?」
涼介(篤之) 「本当…ですか?それは」
エヌビの本 「ああ、本当だ」
涼介(篤之) 「話は聞きますけど、そちらには行きませんから。あと、こいつも」
翔太 「り、涼介ぇ〜!」
スペルの本(要) 「人であるのに、悲しみを知らないような者たちですね。いいでしょう、一度、心して味わうといいですよ!」




「どうでしょう。ここなら見やすいでしょう?しかも大声ださなければ、ステージに響かないですし!」
ゆりえ 「ほえー。良いところに案内されちったぁ。スイートルームちっくかな?」
「かもですねぇー!」
博哉 「喜戸、ちょっとうるさいよ」
「声のトーン少し落とすだけでいいんだ、気をつけろ」
「はい…」
寛子 「………ここって、確かにいい席かも。あとで要先生に言っておかないとね」
「ですねぇ。それにしても、要先生が、敬語でしかも、悪役って貴重ですよね」
ゆりえ 「確かに!役作りで黒縁めがねっていうのが面白いよねぇ」
寛子 「それに、恥ずかしいはずなのに結構それっぽいからすごいよね」
「きっと、演技の才能があるのですよー!よく通る声ですしね、劇団とか薦めてみましょうか!」
博哉 「きっとまたお前、叱られるな。要先生に」
「えー!そんなことはないですよー!こんな俺ですけど、要先生は尊敬してますからね!尊敬ゆえのコメントですから!」



涼介(篤之) 「これは……辛く悲しかった思い出……なのか?中学校時代の暴力、大学受験失敗による両親の態度
        社会人になって誰も守れなかった自分……輝けない自分が悔しくてこの人は命を絶ったのか。
        こっちは、あまりに能力が高くなりすぎて、プライドと人間関係に苦しんだ人だ……」
翔太 「く、苦しい……!生きるってこんなに息苦しかったっけ……?もっと楽しく生きていけるもんだと思ってた……。
    でも、俺、この苦しみに耐えられそうにない……!」
涼介(篤之) 「いや、翔太耐えるんだ…!きっとこれに耐えられなかったら、あの本たちのおもちゃになってしまう…!!
        そしたら、もう夢を叶えることも、人生を純粋に楽しむことだって……できやしない……!」
エヌビの本 「そうだ。もっと苦しむがいいさ。人生の辛さはどんなものより、耐え難い。
         立ち向かおうとしても、立ちはだかる壁は高すぎる!」
ラグジュの本 「さっさと諦めなさいよ!嫌なことばかりで、もう何もかにもやめたいんでしょ?その方が楽よ。逃げなさい?」
翔太 「そ、そう…しよう…かなぁ……。俺、もう限界が……」
涼介(篤之) 「(翔太を叩く)お前は馬鹿か!何が、限界だよ。人生って全部が全部薔薇色で煌びやかで楽しいのかよ!?」
翔太 「そっ、それは……」
スペルの本(要) 「もちろん楽しくありませんよ。人生なんて。
           苦しみの後の楽しみがあるなんて言いますけど、その楽しみってどれほどのものです?」
涼介(篤之) 「無限大…です。数字で表現できた人に会いたい…くらいです。ものさしで計れるほど、単純なものではないですから…!」
スペルの本(要) 「はぁ、人間は綺麗ごとが好きですね。しかも、目先のことしか見えていない頭でっかちです」
エヌビの本 「どこまで、人生の苦しみに耐え切るかな?………なっ!?」
ラグジュの本 「人間が、苦しみに打ち勝った……なんて!」
スペルの本(要) 「!そんなことが、ありうるとでも言うのですか!?」
翔太 「………た、助かったぜ……。山田」
涼介(篤之) 「ふん、無事で何よりだよ」
エヌビの本 「な、なぜ……本に取り入れられなかったんだ……」
涼介(篤之) 「ん?簡単ですよ。人生はそんな出来上がった存在じゃないからです。
        人生は楽しいです、本当。上手く自分の思ったとおりのことができれば、確かに素敵だと思います。
        でも、苦しみはつきもの。たまに上手くいかないことがあったり
        もしくは常に上手くいかなかったりするなんて、誰だってあります。
        今が幸福な人だって、昔はホームレスで死と隣りあわせだったなんてことがあっても、なんら不思議じゃない」
ラグジュの本 「そんな……そんな単純なことだった……か?」
翔太 「……思ったより単純だったよ。なぁ?ただ俺たちが知らずにいただけだったんだ……」
エヌビの本 「それになぜ僕たちは気づかなかったんだ……」
涼介(篤之) 「さあ、どうしてでしょうね。……暗闇に隠れているばかりだからじゃないですかね」
スペルの本(要) 「暗闇……に?ですか」
涼介(篤之) 「そう。光を怖がって、ひたすら暗闇に身を隠すのを何十年、何百年も続けていたら暗闇で生きるほかない。
        それなのに、いつかは光を見たいと望みつつ生きていたら、光を怖がるだけでなく
         何もかもを恐れるようになってしまったんじゃないですか?
        人間だった頃の後悔が、本になった自分にすら重石になって……」
エヌビの本 「ふざけるな!!人間だった自分に後悔なんて……後悔なんて……!!」
ラグジュの本 「はい、ストップ」
エヌビの本 「なっ……!人間に肩を持つ気か!?」
ラグジュの本 「残念ながら、そうね」
エヌビの本 「……!」
スペルの本(要) 「………私たちの負けです。というより、私たちは嘘をついていました」
翔太 「嘘って…?」
スペルの本(要) 「人間であったことを、本当は誇りに思っていました。なのに、何もできなかった自分が憎く
           本になったことで、人間時代に犯した失敗を全て隠してしまおうとしていました。本当に申し訳ありません」
涼介(篤之) 「謝る必要なんてないです。俺はまだほんのわずかな年月しか生きていないから
        皆さんの辛さを身を持って体感しないと理解できなかった。きっと、仲間が欲しかったんですよね?」
エヌビの本 「……そ、そうだな。僕は、寂しかった……。だから、本になりさえすれば
        こんな気持ちから解き放たれるなんて甘いことを考えていた。
        だけど、わかったよ。もう寂しくないよ、君たちみたいな人間に出会えたから――」
スペルの本(要) 「ありがとう…ございます」
ラグジュの本 「ありがとう…ね」

――本から魂が飛び出していく演出

翔太 「なっ!ほ、本から光がぁ……!!」
涼介(篤之) 「く、眩しい……!!」

――暫く経って、光が消える演出

翔太 「これって、もしかして本に宿った人たちが成仏したってことなのかな……」
涼介(篤之) 「かもしれないな……」
涼介(篤之)語り 「こうして、蕪木寮では図書館の不思議が語られることはなくなった。
           怪しい風情がなくなった図書館では、静かに野鳥が鳴く。
           彼らは、本になってしまった人間の嘆きを毎日聞いていたのだろうか――」


――演劇が終わる、ゆっくり幕が下り始める

知花 「はーいっ。皆さんいかがでしたか〜っ!?水泳部の有志の皆さんと教員から大抜擢されました、2年目の要先生による
    『文字のささやき』でした!!あー、ホント、要先生みたいな本があったら私なら図書館ごと買い占めますよ!
    全軍全権力を持ってしても!言いくるめて!」

―― 一瞬静かになる

知花 「(咳払い)じゃ、改めて全学年の皆さん、先生方は、大きな拍手をお願い致しま〜す!
    続いては生徒会長から、お話がございまーす!」

――閉幕。盛大な拍手が巻き起こる

ゆりえ 「ほわー………」
「あれって……?」
寛子 「……。今、劇の最後のシーンの……」
博哉 「間違い…ないですよね?あれは俺たちが描いた合同画……でした」
「(にぃと笑って)いやぁ、気づきました??」
ゆりえ寛子博哉 「?」
「実はですねぇ、劇の最後の光のシーンに合同画がぴったりだと思って、要先生が拝借して、昨日こちらに持ってこられたそうです!」
寛子 「要先生が?」
ゆりえ 「ほえ〜要が!」
「ふふん!びっくりでしたでしょう?」
博哉 「俺はてっきり、本当に盗られたのかと」
「……でもさ、なんで要先生、何も言わずに持っていったんだろう」
博哉 「確かにそれは気になるな」

――要が階段を駆け上って来る

「――ふぅ、はぁ、すまん」
「お!要先生が来ましたよ!」
ゆりえ寛子博哉 「要(先生)!」
「あの、お前たちに謝ろうと思ってな。……はー。この階段、結構きついな」
寛子 「喜戸くんに聞きました。私たちの合同画が劇のシーンに合うと思われたんですよね?」
「ああ、そうだ。他にも背景パネルはあったんだがな、どうしても使いたいと思った。
   ……お前たちには悪いことをしたな。教師としてあるまじき行動だ」
寛子 「……いえ、そんなことないですよ。私、すごく嬉しかったです。
    本当に予想外だったというか、感動して何も言えなかったというか……。その、ありがとうございました」
ゆりえ 「うん。私も細かいところしかやってなかったけど、あんな風に使ってもらえて良かったなぁ〜」
「僕もびっくりしましたけど、いいですね、やっぱり。自分が関わった作品がこうやって表舞台に出るなんて」
博哉 「本当にありがとうございます、要先生。また素晴らしい文化祭にしてくださって」
「……そうか。それなら、良かった」
「それにしても、要先生。劇、初々しかったですよ!いやぁ、貴重な機会に出くわせて俺は…!って、いてててっ!み、耳!」
「いらんこと言わんでいい!」
ゆりえ寛子博哉 「(笑う)」


◆放課後 下校中の二人

ゆりえ 「……ほわぁ〜。劇見て、思い出しちゃったなぁ」
寛子 「どうしたの?」
ゆりえ 「中学校時代のこと」
寛子 「……」
ゆりえ 「頑張って、もがいて、自分のことしか考えられなくてって感じの私〜」
寛子 「……まさか高校やめるとか……」
ゆりえ 「へ?どーして?やめないよぅ。だって、こんなに大好きな学校、離れられないって!」
寛子 「(笑顔になって)そうよね、その通りよ。さてと、今日は奢ってあげよっか?噂の焼きカリー」
ゆりえ 「えー、ビッグもこ丼にしようよぉ」
寛子 「は?何をぅ!」
ゆりえ 「だって、[おご]りなんでしょ〜?」
寛子 「……はいはい、わかったわよ」




To be continued.

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