ろこもこゆーすふる〜美術部の日々〜

  第9話 ゆりえ(仮)



new→《当台本を利用してくださってる方へ》




垣本 ゆりえ(かきもとゆりえ)女 現:高校3年生/当時:中学3年生、高校1年生
明るく元気なスポーツ系天然娘。
中学時代は陸上部のキャプテンとして県内の大会を総なめにするほどの実力があったが
ひょんなことから美術部に入部したらしい。


赤星 寛子(あかぼしひろこ)女 現:高校3年生/当時:高校1年生
美術部部長。基本的には、真面目な姉さん気質。
某有名芸術大学を目指し勉学に奮闘中。
絵は天才的に上手いといえばそうだが、色彩センスだけは素人が見てもまるでない。
※生徒&女子生徒役(別人)と被りです


垣本 悠斗(かきもとゆうと)男 現:高校1年生/当時:中学1年生
ゆりえの弟。アスペルガー症候群と診断されている。
生活リズムが変わったり、物の置く場所が変わったりすると
落ち着きがなくなる。そのため、特別支援学級通いで母親か、ゆりえが迎えに行っている。
食べ物(特にデザート類)に異様な興味を抱き、一口食べただけで材料の変化を言い当てることができる。
人への関心はどちらかというと希薄。


垣本 美穂(かきもとみほ)女 現:44歳/当時:42歳
ゆりえの母。
真面目な性格がゆえに、アスペルガーと診断された悠斗に対して特に過保護。
しかしながら、悠斗に対して上手く接することができていないと思い込み、悩んでいる。


小佐田 恵莉(こさだえり)女 当時:中学3年生
クラスのリーダー格。天然パーマが特徴的。
ちやほやされて育ったため、スポーツ万能で羨ましがられるゆりえに突っかかっていた。
本当は優しいはず。


出口 勝(いでぐちまさる)男 当時:中学3年生
(元)野球部。無類の女好き。恵莉と絡むことが多い。
気の良いお調子ものだが、根の部分は真面目。


医師(後藤先生)不問 20代終わり〜40代
穏やかなで優しい悠斗の担当医。
アスペルガー症候群に様々な可能性があることを信じている。


教師 男 20代〜30代
ゆりえ・恵莉・勝の担任教師兼、陸上部顧問。








2:4:2(4:4:0 3:5:0 etc)台本(所要時間約35〜40分)

<キャスト>
垣本 ゆりえ(♀):
赤星 寛子/女子生徒/生徒(♀): 
垣本 悠斗 (不):
垣本 美穂  (♀):
小佐田 恵莉 (♀):
出口 勝  (♂):
医師   (不):
教師   (♂):


※台詞数に偏りが多いですが、どの役も大切の役ですので、どうかよろしくお願いします。











<前回までのあらすじ>

寛子ナレ 「高校最後の文化祭。思い思いの演劇が披露された後で、親友のゆりえはこう呟いた」
ゆりえ 「『――思い出したんだ。頑張って、もがいて、自分のことしか考えられなかった頃の私』」
寛子ナレ 「それは私が見たことがないゆりえで、同時に知る必要があるゆりえの一面なのかもしれない、と思った。
       これは、私と美術部で活動する前のゆりえと、その家族の物語。いつもとちょっぴり違う、セピアカラーの物語」

寛子(タイトルコール) 「ろこもこゆーすふる〜美術部の日々〜第9話、ゆりえ」




◆5年前 病院(悠斗小学生時代)

医師 「同じ行動を反芻[はんすう]する、丸。変化に対してパニックになりやすい、丸。注意欠陥・多動性、丸。
    狭い分野にて並外れた記憶力を持つ、丸。会話のキャッチボールが不得手、丸。人への関心が希薄、丸。
    ……最低限の特徴は満たしていますね」
美穂 「…はい。他の医師には自閉症の疑いがあるって言われてきたのですが、その……もっとひどい障害なんでしょうか?」
医師 「ひどい、ですか。いえ、それはお母さんの考えようですよ。はっきりお伝えしますが、悠斗[ゆうと]くんはアスペルガー症候群ですね」
美穂 「アスペルガー…」
医師 「ここ最近よく聞かれることが多くなっていませんか?アスペルガー症候群って」
美穂 「いえ、あまり……」
医師 「安心してください。私はアスペルガー症候群を"病気"だと診断致しません。
    悠斗くんは、あらゆる可能性を持った原石であり、時代を担う才能児です。そう信じて疑いません。
    ……もし、困ったことがありましたら、私にご相談ください。あなたが悩むのと同じように、悠斗くんも悩んでいます。
    まずは彼の話を聞いてみましょう。そこからゆっくりと互いの理解を深めて、少しでも考えを読み取ってください」
美穂 「はい…。しかし、もし悠斗[ゆうと]が周りにこれ以上迷惑をかけるような、いえ、それ以上の……」
医師 「(美穂を見据えて)お母さん」
美穂 「へっ……」
医師 「次にお越しいただく際は、否定的、悲観的である言動をなるべく控えられるようにしていただけませんか?
    その方があなたにとっても、楽なはずです」
美穂 「(面食らって驚いた後、涙をこらえる)……ううっ……」
悠斗 「(ぶつぶつ独り言のように)今日の夕飯は、デミグラスソースを使ったオムライス。
    洋食専門店のポプみたいに半熟にして、ソースに隠し味を必ず仕込む。ご飯は水を少々少なめにして、固めのお米。
    うーん、バランスを考えて、野菜の種類も増やしてみるかぁ……」
医師 「悠斗くん」
悠斗 「ピーマン、タマネギ、バジル……臭み消しにはローレル……」
医師 「ローレル。私もカレーを作るときには入れるかな」
悠斗 「そう、ローレル。ローレル入れるべきだよね!なのに、うちのカレーには入ってないんだ」
医師 「今度入れたあげたらいいよ。その方がずっとおいしいカレーができるって」
悠斗 「うん、わかった」
医師 「(悠斗に対して微笑む)」
悠斗 「(医師を初めて認識して)教えてくれて有難う」
美穂 「……どうやったら、そんな……会話が……」
医師 「アスペルガー症候群は、人には興味がなく、物に執着することの方が多い。
    でもアスペルガー症候群は症状が決まった病気とは違うんです。全く同じ人が存在しないように、彼らも個性を持っている。
    だから、悠斗くんの場合は、興味が抜群にある『食べ物・料理について関連付けて会話をすること』。
    これがスタートになるんです。あとは…そうですね、絵なんかで今日一日の予定を書いておくのも良いでしょう。
    ああ、早くなくていいんです、一つ一つ訓練していきましょう」
美穂 「……そう、ですか。………ありがとうございます」




◆3年後 中高一貫校 柳ヶ森学園 校庭
――ゆりえの50メートルのタイムを計っている

教師 「6秒59!」
生徒 「おお!」
ゆりえ 「(走り終わって)はーっ!走ったぁぁぁ!」
教師 「よくやったな、中学最後の大会でもこの調子が維持できるようにな!」
ゆりえ 「はーい!精一杯走ってきます!」
恵莉 「……」
「エーリ?どうしたの、そんなにムスっとして」
恵莉 「別にムスっとしてないもん。それで…[まさる]は何。野球部の練習はどうしたのよ」
「勉強と両立できなくてやめて来たところ。んや、今のは嘘。俺は気分屋だからねー
   恵莉[えり]の陸上部のユニフォーム姿を見に。(叩かれて)…痛ぅ!」
恵莉 「この変態」
「はぁーあ、本気で叩くなって。……あ、そういや何見てムスっとしてんの?」
恵莉 「……」
「わかった。垣本[かきもと]だろ。垣本ゆりえ!今颯爽[さっそう]と走り抜けた!」
恵莉 「声が大きい」
「フッ。あいつ、すごいよなぁ。7秒切るとかバケモノだろ。どの大会に出ても負け知らず。
   しかも、スポーツ系の中でも、ちょっと可愛いしなぁ…。中の上くらいで。何?足が遅いのを気にしてるのか?」
恵莉 「気にして……ない」
「ふーん。……あ、垣本がいる!おーい!」
恵莉 「あっ、ちょっと!」
ゆりえ 「ほえ?ああ、野球部の人!」
「あはは、垣本変な反応するなぁ〜。練習で7秒切ったの見たぞ」
ゆりえ 「ありがと〜。私ね、もっと速くなりたいんだぁ。だからまだまだ練習しないといけないからまた今度お話してね!」
「おうよう!」
ゆりえ 「バイバーイ!」
恵莉 「……」
「ほら、あいつ良い奴だろ?というか、俺ら同じクラスなんだからわかるだろ?
   3年間とか同じクラスだったらもっと分かるかもしれな……恵莉?」
恵莉 「……たしの方が、私の方が[]けてるし……、人気もあるのに!!(走り出す)」
「はっ?恵莉!!……うーむ、そんなに悩むことなのか」



◆夜 帰り道

ゆりえ 「あー…部活で遅くなっちゃったー。お母さん怒るかなぁ……」
悠斗 「(誰へでもなく語る)広岩さんのロールケーキのシロップが変わった。砂糖の分量もちょっと多かった。
    あれって、グラニュー糖じゃないよね。間違えて上白糖[じょうはくとう]にしちゃったんだと思うんだ。甘さがいつもよりしつこかったし……」
ゆりえ悠斗[ゆうと]ー。そんなにロールケーキまずかったのー?広岩さんのだよ〜?」
悠斗 「まずくなかったよ。ただ、いつものパティシエさんが作ってなかっただけなんだ」
ゆりえ 「ほえ〜。私はいつも通り美味しかったと思うよ〜」
悠斗 「やっぱり、味の決め手は細かいところにあるんだよ。次はそんなことがないと嬉しいな」
ゆりえ 「悠斗は厳しいなぁ。評論家さんみたいだぁ」
悠斗 「評論家…。むしろ僕は作り手になりたいな」
ゆりえ 「作り手!ということは、パティシエかぁ。かっこいいなぁ」
悠斗 「(再度語る)ケーキのあの表現はやっぱり品質なのか、ブランドなのかが問題になってくるんだよな……そして……」

――家の近くで待っていた美穂(ゆりえ母)

美穂 「(暗い様子で)おかえりなさい」
ゆりえ 「あ!お母さんただいまっ。お、遅くなってごめんね?陸上部で最終調整と話し合いがあって、それで部長だから色々…」
美穂 「……悠斗は?」
ゆりえ 「へっ!?あ?ゆ、悠斗はここにいるよぉ?」
悠斗 「(まだ語り続けている)混ぜ合わせるときの感じも力加減も大切だけど、思いやりも大事だし……」
美穂 「……あ、ああ。いるのね。そうね」
ゆりえ 「……特別学級にちゃんと迎えに行って、手繋いで帰ってきたよ。いつもと同じ。変わってない」
美穂 「……。今、何時だと思ってるの?」
ゆりえ 「8時……」
美穂 「9時近いわよ」
ゆりえ 「……うん」
美穂 「1時間以上ずれてる」
ゆりえ 「……うん」
美穂 「こんなに予定と違ったらいけないでしょ?悠斗が手がつけられなくなったらどうするの」
ゆりえ 「でも、今日の悠斗は不安定じゃなかったよ」
美穂 「今日は、でしょ?もしものことがあったらどうするの?お母さん、ちょっとお通夜に顔出してくるって言ったけど
    あなたたちが帰ってくる時間には家に帰り着いていたの。
    顧問の先生にも、特別学級の先生にも電話が繋がらないし……。心配したじゃない」
ゆりえ 「ごめん…なさい」
美穂 「(我に返って)……あ。ごめん…なさいね、ゆりえ。私ったら、また当たってしまって……」
ゆりえ 「いいよ、気にしないで。お母さん…、その、大変だもん。知ってるよ私だって」
美穂 「ゆりえ……」

――部活帰りの恵莉がゆりえと母が話しているのに気づいて、電柱に隠れる

恵莉 「何あれ…」
美穂 「私があなたに無理させ…」
悠斗 「(不機嫌そうに何かぶつぶつ言っている)」
美穂 「…!悠斗!」
ゆりえ 「……あっ」
悠斗 「ふん!…やぁ!もう!」
ゆりえ 「だめだよ、悠斗暴れちゃダメ!ケガするよ!お腹すいたでしょ?夕飯食べようよ、ねっ?……ね?」
悠斗 「(ぐずぐずしている)」
美穂 「…ああ、悠斗が…、悠斗が……っ」
悠斗 「うぅぅー…」
ゆりえ 「だ、大丈夫だから!ね、ねぇ!二人とも家に、ほらっ!また人集まっちゃうよ!(二人の背中を押しながら家に入っていく)」

――ゆりえたちの様子を窺う恵莉

恵莉 「…ふーん。そういうことね」



◆数日後 ホームルーム5分前

――教室の教壇の前に生徒たちが集まって、口々に話している

女子生徒 「な、何これ……。
      『垣本[かきもと]ゆりえには、変な兄弟と変な親がいる。突然[わめ]くわ騒ぐわで近所迷惑。気持ちが悪い。
       こんなのまともじゃない。まともじゃない家族を持った垣本ゆりえは最悪極まりない』……って?
      黒板に赤で書きなぐられてるから、余計に気持ちが悪い……」
「うっわぁ……。やったなぁこりゃ。まるで血糊で書いたみたいなことになってんなぁ……。
   いや、これ、ゼリーかぁ?先生に見つかったら、めんどくさいぞ〜。なぁ、恵莉。…ん?」
恵莉 「そうかもね」
「ん?……んん!?」
恵莉 「何よぉ」
「いや、なんでもねぇよ」
恵莉 「ふーん……」
「そんな顔で見るなって」

――何か言いたそうにしている勝の向こうから、女子生徒が手を振っている

女子生徒 「おーい、[まさる]ー!先生が、会議長引いてるみたいだから、今のうちに綺麗にするの手伝ってよ〜?」
「なんで俺ですかー?」
女子生徒 「だって、勝が一番やってくれそうだしぃ」
「はいはい。このクラスの女子は俺のお姫様でしたからねぇ〜。やりますよ。全くも〜」
女子生徒 「嘘嘘ー。あんたが一番背が高いし、わかんない程度に、あの赤いヤツとってくれそうだなぁって話になったのー。
       じゃ、よろしくー」
「あいよ。ったく、お姫様のわがままには従う他ねぇや」
恵莉 「待って」
「んぁ?俺は一人しかいねぇから、すぐにわがまま聞けねーよ?」
恵莉 「消さないで」
「はぁ?」
恵莉 「だから」
「おう?」
恵莉 「消すなって言ってんの!」

――騒がしかった教室が一瞬静まり返る

「……お、おう」
女子生徒 「……せ、先生に見つかったら、怒られちゃう…じゃん?」
恵莉 「怒られる?何に怯えてんの、皆。別にあんたたちがやった訳じゃないでしょ」
女子生徒 「だけど……、これゆりえのこと書いてるじゃん。見たら嫌だろうし」
恵莉 「そんなの本人が見るまで分からないじゃない」
女子生徒 「でも……」
恵莉 「試したっていいじゃない。垣本ゆりえがこれ見てどういう反応するか、って。いつもニコニコしてる子がどうなるかって」
「……。恵莉……」

――教室のドアが開く

ゆりえ 「(元気よく言おうとして黙り込む)皆!おはよ……」
女子生徒 「………」
「……」
ゆりえ 「(笑顔が凍りつき)え、あ……」
女子生徒 「ゆ、ゆりえ!これは……」
ゆりえ 「んと、えっと……」
恵莉 「ゆりえちゃん、おはよう。どうしたの?」
ゆりえ 「その……、この黒板のは……」
恵莉 「事実よね」
ゆりえ 「!」
恵莉 「紛れもない事実。だーって、証人がここにいるんだもん」

――ゆりえの後ろから担任の教師が現れる

ゆりえ 「……え」
教師 「いや……」
恵莉 「ね、先生」
女子生徒 「証人って……先生?」
恵莉 「言ってましたよねぇ、先生。あの一家はどうも疲れるって。
    なのに、なぜかゆりえを3年間担当しなくちゃならなくなって迷惑してるって。
    ねぇ?言ってましたよね?昨日だって、ゆりえの親から鬱電話かかってきて、どうも対応しかねるって」
教師 「そ、そんなこと……は」
恵莉 「先生、本当のことは本当って言った方が身のためですよ?だって、逆に教育委員会に訴えたっていいのよ?」
教師 「!」
恵莉 「本当に先生はそう言った。私はちゃんと聞いたの」
教師 「ちが…う。俺は違……」
恵莉 「これでも?」
教師(録音) 「また垣本ゆりえですよー。あいつは足早くて学校としては高等部でもしっかり育てて
        優秀な陸上選手にして、後々学園の広告塔に仕立て上げようとしているんでしょう。
        しかしですねー、今年入学した垣本悠斗、ゆりえの弟なんですよー。ああ、知ってます?
        入って早々風紀は乱すは、授業中に逃げ出して調理実習の学級に勝手に混ざるわ、ひどい有様ですよ。
        親も頭がおかしいのか、まともに障害児を扱えないし、ゆりえが部活で帰るのが遅いからといって
        関連教師に何度も何度も電話してくるんですよ。もうあれ、どうにかならないんですかね〜(笑う)」
ゆりえ 「………」
「わぁ……」
女子生徒 「先生!?」
教師 「お、俺では…っ。くぅ!」
恵莉 「まだ何かおっしゃるつもりですか、先生。私はやると言ったらやる人間ですよ。
    教育委員会にこのICレコーダーの音声、渡したらどうなるかなぁ」
教師 「きょ、教育委員会にだけは……」
恵莉 「ふーん。認めたってことですよねぇ。ゆりえにこっそり悪態ついてたってこと」
教師 「な!」
女子生徒 「先生!ゆりえに謝ってください!すぐに!今すっごく傷ついてる!」
教師 「……」
女子生徒 「先生!」
ゆりえ 「(台詞を遮って)あの」
教師 「ひ」
ゆりえ 「帰り…ます。皆勤賞……だったんだけどなぁ」
「ゆりえ!」
女子生徒 「ゆりえ!」
ゆりえ 「先生、早退に丸つけといてください」
「ちょっと待て!」
ゆりえ 「…ん?」
「ここまで言われて辛いなら、こんな先生相手にすんな」
ゆりえ 「(うなづいて)……またね」

――ゆりえカバンを持って教室を去り、静かに始まりのチャイムが鳴る

女子生徒 「……ゆりえが、ゆりえが帰っちゃったじゃん……」
教師 「……すまない」
恵莉 「……」
「……最っ低、だな」
教師 「……く」
「……恵莉も」
恵莉 「……っ(事切れたように泣き出す)」




◆20分後 ゆりえ宅
――ドアの開く音に気づいて美穂がゆりえに駆け寄る

美穂 「……ゆりえ?」
ゆりえ 「………た、ただいま」
美穂 「学校はどうしたの」
ゆりえ 「……早退、してきた」
美穂 「具合悪いの?……うーん、熱はないけど、顔色悪いわね」
ゆりえ 「……」
美穂 「……大丈夫よ。悠斗は私が迎えに行くから。あなたはゆっくり休んでなさい」
ゆりえ 「……ぐ、具合は悪くないよ!」
美穂 「でも、青白い顔してるし、無理しなくてもいいのに」
ゆりえ 「私…、私ね」
美穂 「?」
ゆりえ 「学校大好きじゃなくなっちゃった……。怖く、なっちゃった。だから早退…。いや、サボっちゃったんだ」
美穂 「……え。どうしたの、嫌なことあったの」
ゆりえ 「………お母さん」
美穂 「うん」
ゆりえ 「悠斗って学校行っちゃだめなのかな」
美穂 「え?」
ゆりえ 「今日、悠斗がいろんな人に嫌われてるって知らされたんだぁ。大丈夫だって思ってたのに。
     できないのは、好きなことを我慢することくらいだって、そう思ってたのに。すんごく嫌われてたの」
美穂 「……」
ゆりえ 「私、悠斗のことは大好きだよ。苦手なことが山ほどあるけど、頭いいし、料理も出来る。
     分かってもらえないかもしれないけど、思いやりだってちゃんとあると思うし」
美穂 「そうね。悠斗はいい子……そのはずよね」
ゆりえ 「うん」
美穂 「ちょっと障害を持っちゃったから仕方がないのよ。あとは大体普通なの。……きっとね」
ゆりえ 「……」
美穂 「……」
ゆりえ 「(段々泣きそうに)だけ…ど、なんだろうな……。悔しいよ。大好きな弟のことをわかってもらえないなんて」
美穂 「そうね、私もそうよ。同じ気持ち。どうにかしてあげられたらいいのにね」
ゆりえ 「うん、……うん。ホントに悔しいなぁ。分かってもらえてないって気づいただけで、なんで逃げ出しちゃったのかなぁ
     何か…何か言えば良かったのかなぁ……」
美穂 「……うん」
ゆりえ 「(涙を堪え)い、言いたかった、な……。弟はすごいんだって。私ができないことが一杯できるんだって」
美穂 「その通りよね。悠斗には素敵な能力がある。だから私たちが支えてあげないとね」
ゆりえ 「……うん」
美穂 「(少し考え)…ゆりえ」
ゆりえ 「う?」
美穂 「学校……、やめてもいいのよ」
ゆりえ 「……えっ。普通に公立行ったら、悠斗が勉強できるクラスないし、授業料もかかるし……」
美穂 「勉強ができないなんてことはないわよ。私がちょっと過保護になりすぎだったの。ゆりえも無理したでしょ?
    陸上で引っ張られたから、続けていないとって。やめちゃ駄目だって。
    ……だけど、もう無理する必要なんてないのよ。お母さんがどうにかしてあげるから……」
ゆりえ 「お母さん……無理、しすぎだよ。知ってるよ、近所の人や学校の人にヒステリックだって言われてるって」
美穂 「…!」
ゆりえ 「私なんかよりお母さんの方だよ。辛い思いしてるの。だから、私もお母さんを元通りのお母さんに変えたいよ……」
美穂 「………」
ゆりえ 「………ねぇ」
美穂 「………」
ゆりえ 「……あのお医者さんは?」
美穂 「お医者さん…?」
ゆりえ 「悠斗のかかりつけのお医者さんの後藤先生だよ。最近はずっと顔出してないけど、話……聞いてくれないのかな」
美穂 「……」
ゆりえ 「…いや、聞いてくれるよ。そのはず」
美穂 「……そうね」




◆放課後 学校 調理実習室前

「――だから、ゆりえに謝りに行けよ。家、近所なんだろ……?」
恵莉 「嫌だよ……。今更そんなこと言って、意味あるの」
「意味あるとかないとかそういう問題じゃないだろ!」
恵莉 「でもっ……」
「……ん?」
恵莉 「……?」
「あれは……」

――通りかかった調理実習室を外から覗く勝、続いて覗く恵莉

恵莉 「………」
「見た?」
恵莉 「うん……。見た」

――ゆりえの弟、悠斗が調理室で何かを作っている

悠斗 「(なんとなく鼻歌)」
「あれって…垣本ゆりえの弟だよな」
恵莉 「う、うん」
「確か特別学級だったよな?なんで一人で調理自習室にいるんだろ。先生どこだ」
恵莉 「……さあ」
「おまえさあ、さっき垣本ゆりえに悪いことしたから、絡みづらいんだろ?わかってるよ」
恵莉 「……あの子、苦手で……」
「ったく、ゆりえに嫉妬したかと思えば、その弟も嫌うし、めんどくさい奴だなぁ」
恵莉 「……い、いいじゃん!もう、バレちゃったんだし…」
「……はぁーあ」

――オープンのタイマーが鳴る

悠斗 「タイマー…。スポンジできたな。……よし、鍋に水50ccとグラニュー糖40グラムを入れてっと……」
恵莉 「………(口がほころぶ)」
「……今お前、ちょっと笑ったろ」
恵莉 「いいや」
「…ふーん。それにしても、いい匂いだなぁ。何作ってんだろ」
恵莉 「(呟くように)……ケーキ」
「ん?んん??」
恵莉 「ケーキ」
「んんん??」
恵莉 「け え き !!」
「耳に近い!!耳に近い!!嬉しいけど!」

――調理実習室のドアが開く

悠斗 「そこの人、入って来てよ」
恵莉 「ギャー!」
悠斗 「へっ!?」
恵莉 「(小さな声で)あんたのせいよ、あんたのせいよ、あんたのせいよ」
「(小さな声で)なんで俺、なんで俺、なんで俺」
悠斗 「ケーキ作ってるんだ。ちょっとしたパーティに使えような、ほんのり甘いケーキ。
    ……家で作ろうとしたら、母さんになぜか怒られるし、姉ちゃんもなんだかボーッしてるから
    まだ誰にも味見してもらったことがないんだ」

――互いに顔を見合わせる恵莉と勝

悠斗 「絶対においしい自信があるから、完成したら食べていってよ。もし、甘いものが嫌いでも、必ずおいしいって言わせてあげる。
    まだ少し時間かかるけど、そこに、ほら、座ってよ」
「はぁーい」
恵莉 「勝!」
「何?」
恵莉 「この子、特別学級の子なんでしょ??いいじゃん、帰ろうよ」
「いや、俺、ケーキ好きだし」
恵莉 「好きかもしれないけど、もう、いいじゃん。充分見たし、ね?」
「……家まで徒歩で45分かかるんだよね〜。それまでいつも腹が持たねぇし。だから、食べていってあげようかと思って」
恵莉 「待つのー!?信じらんない」
悠斗 「スポンジって完全に脇役って思ってるでしょ?それは違うんだよね。どう考えてもスポンジはメインだ。
    スポンジがなければ話にならないし、なんたって生クリームがおいしくならない。
    いや、もちろん生クリームが不味くても話にならないけどね。
    それで、僕のケーキには特製リンゴシロップもあるし、甘いようで甘すぎない、しっくりくる甘さが口の中に広がるはずだよ。
    ちょっと近所のパティシエの人に聞いたところもあるけど、今回はほとんど自作。
    試作するのもやっと2回目なんだ。1回目の試作の時、誰もここに来なくてね。
    結局、自分で食べちゃった。
    最近、自分で作って自分で食べるって案外詰まんないってことが分かったから、食べさせてあげたいんだよね」
「お、おお。そうなんだ…。(ここから恵梨に向かって)こいつ、全然普通じゃないか。それに、むっちゃ饒舌[じょうぜつ]じゃん」
恵莉 「じょうぜ…つ?……じゃなくって、特別学級ってことは、特別に指導しなきゃいけない生徒ってことじゃない」
「本当にそうかよ?」
恵莉 「じゃあ、なんで特別学級にいるのよ、ゆりえ弟は……」

――調理実習室のドアが開く

恵莉 「あ……」
教師 「失礼するよ」
「担任……。何しに来たんですか」
教師 「特別学級の斉藤先生の代わりに、垣本悠斗を迎えに来た」
「ゆりえの弟を?」
教師 「そうだ。今日は先生が休みなんでね、何人かの先生たちと事務員で特別学級の子たちをみてるんだ。
    ……しかし、最後だからな、今日で」
「辞めるんですか」
教師 「そうだな」
恵莉 「……!」
教師 「あの録音、聞かれていたみたいで、色々あった結果、先ほど、教育委員会から連絡が入ったよ。
    ……どう判断されても、俺は辞めなければならない」
「……そうですか」
恵莉 「………」
教師 「辞めるしかないと思った時、初めて思ったよ。俺は本当に先生でいたかったって。
    ………でも、こういう事を起こすってことは端から向いてなかったんだよな、教師なんて」
恵莉 「ごめん…なさい。私が……私が余計なことをした…から……先生が……」
教師 「いや、良かったよ。小佐田[こさだ]は不本意かもしれないが、最終的には俺のためになったんだよ。……謝るのは、ゆりえにしろ」
恵莉 「………はい」
悠斗 「でき…た。試作品の特製ケーキ完成だ。今すぐ切り分けるから絶対にこの部屋から出ないで」
「お、おう。突然びっくりした。……ねぇ、担任。どうするんですか?悠斗を無理矢理にでも連れていくの?」
教師 「……垣本の親が来てるんだ。いつもいるはずの教室にいないもんだから、軽くヒステリックになってる」
「まじか。ケーキ食ってる場合じゃ……」
悠斗 「食べなよ、ケーキ」
「お、おお」
悠斗 「そこの二人も」
恵莉 「……え」
教師 「あ……。き、きみのお母さんが来てるんだぞ?」
悠斗 「ケーキ。僕が作ったケーキは皆、美味しいって言うはずなんだ。だから、食べてよ。……あ、食べてくださいです、ケーキ」
恵莉 「う、う…ん」
教師 「……」
「じゃあ食うか!ケーキとか久しぶりなんだよなー。誕生日とかクリスマスくらいしか食べられないし、超ラッキー!」
悠斗 「(少しして)はい、切り分けたよ。どうぞ召し上がれ」

――無言で食べる恵莉、勝、教師

「………」
恵莉 「……」
教師 「……」
「(ブルブル震えて)………うんまい!!まじこれヤバイぞ!!」
恵莉 「おいしい……!」
教師 「………おお……」
悠斗 「特製リンゴシロップも効いたかな。ほんの少しの加減が楽しいんだ」
「おまえ……天才だぞ!?中学1年でこんなに上手いケーキ作れる奴、見たことねぇ……」
恵莉 「う、うんうん……」
教師 「こんな才能の原石だったとは………」
「担任!なんで悠斗、特別学級なんですか!別にいいじゃん、皆と授業受けたって!
   何か悪いことしたんですか、何か問題でもあったんですか!」
教師 「いや……、垣本悠斗は落ち着いて授業を聞いてられないんだ。
    独り言も大声で話すから、小学校ではかなりの問題児だったらしい」
「そんなの、学校がどうにかすりゃいいじゃん!小学校より人多いんだし、もっと何かしてあげられないんですか!」
教師 「………」

――調理実習室のドアが開く

美穂 「……悠斗!」
「わっ」
恵莉 「……ゆりえの、お母さん……?」
教師 「!」
悠斗 「……?」
美穂 「(疲れた様子で)悠斗、お母さん心配したのよ。
    お母さんが迎えに来る水曜日と金曜日は、特別学級にいるっていうことにしてるでしょ?
    なんでまた、こんなところで……。ケーキ?何をさせていたんですか、先生!」
教師 「え……いえ、私は……」
悠斗 「ケーキ、作ったんだ。食べてよ。冷蔵庫に入れてもいいけど、今じゃないと嫌だ」
美穂 「……え。これ、悠斗が作ったの?」
悠斗 「母さん食べて。自信作なんだ」
美穂 「う、うん」
悠斗 「はい、どうぞ」
美穂 「(無言で口にし暫くして)………!」
悠斗 「美味しいよね」
美穂 「(涙目になって)………悠斗!あなた、こんなことが出来るようになっていたの……?知らなかった……、知らなかった……」
「ゆりえのお母さん、悠斗、本当は家でお母さんにケーキを作ってあげたかったんだって言ってましたよ。
   でも、どうしても作らせてもらえなかったって」
美穂 「……」
悠斗 「初めて食べてくれたね、母さん。でも喜んでほしかったな」
美穂 「……喜んでるの……。すごく、すごく、お母さん喜んでる」
悠斗 「でも、涙出てる」
美穂 「喜んでいる時でも、涙が出る時だってあるのよ。嬉しくて嬉しくて 仕方がない時だって……」
悠斗 「……難しい」
美穂 「もっと……、色んなことを勉強しましょうね。もっともっと、たくさんの楽しいことを、これからやっていこうね……悠斗」
悠斗 「うん、教えてよ。母さん」
美穂 「(泣く)」
教師 「………。俺も最初からやり直してみようかな」
「ん?」
教師 「いや、なんだかまともになれる気がしたんだ」
恵莉 「………。先生ならやり直せるよ。"絶対"」
教師 「……絶対、か」
恵莉 「絶対戻れるよ。ここじゃなくても」
「(ちょっと笑って)……そうだな。担任、もう俺たちは高校だけど、また戻って来てくださいよ、どこかに」
教師 「……わかった」




◆1ヵ月後 病院

ゆりえ 「後藤先生、お久しぶりです」
医師 「本当、ご無沙汰してますね。ゆりえちゃん。今日はどうしました?」
ゆりえ 「学校、辞める事にしました」
医師 「辞めるって……。陸上推薦で入学した、中高一貫校?」
ゆりえ 「そうです」
医師 「そうですか……。でも、少し気分は違いますか?」
ゆりえ 「はい」
医師 「ゆりえちゃんにとって、辛かったでしょうね。定期的にうちに顔出してくれても良かったんですけどね」
ゆりえ 「……それだと、なんだか嫌だったんです」
医師 「嫌だった?」
ゆりえ 「はい。自分に負けているような気がして」
医師 「……」
ゆりえ 「あ、でも。陸上で他の人に負けるのは悔しくないです。
     だけど、陸上部の練習で負けたら、先生とか皆が怖くって負けられませんでした」
医師 「そうですか……」
ゆりえ 「……あ、やっぱり訂正です。負けず嫌いです」
医師 「(笑う)どっちですか」
ゆりえ 「えへへ、ごめんなさーい」
医師 「ふふ。やっと笑顔を見せてくれたね。もう笑ってくれないかと思っていましたよ」
ゆりえ 「ほえ?」
医師 「そうそう、その顔も」
ゆりえ 「……」
医師 「……中高一貫校をやめるってことは、別の高校に行くつもりなんですね」
ゆりえ 「はい」
医師 「それでいいと思いますよ。環境が変わることで落ち着くことも多々あります」
ゆりえ 「んと、環境もそうですけど、最後に"ケンカした友達"とも仲直りできたんです。
     だから、学校に残らなきゃいけないっていう気持ちもなくなりました」
医師 「そう…ですか。そして、悠斗くんはどうされるんですか?」
ゆりえ 「悠斗がしたいようにさせたいって言ってました」
医師 「お母さんが?」
ゆりえ 「はい」
医師 「そうだね。彼の考えを尊重した方がいい。……できる限りね。その方が彼の能力が高まりやすい。
    しかしながら、悠斗くんに我が侭ばかりさせるのも駄目ですよ。時にはしっかり教えてあげてください。
    彼は、やはり人の表情から感情を読み取ることはできなかったし、辛うじて分かるのは、泣くのは悲しいという"意味"だけ。
    でも成長してきているようですね、悠斗くんは」
ゆりえ 「うん、悠斗はすごいですよ。ケーキとか作るのすんごく上手なの」
医師 「ケーキですか。今度頂きましょうかね」
ゆりえ 「はい、ぜひ!うちで食べてください。悠斗が腕をふるってくれます!」
医師 「(笑う)はい、わかりました。………なんだか、安心しましたね。お母さんもあの時期は顔色も優れず
    言動には不安があふれ返りそうなほどありましたし、悠斗くんの言葉もどこか寂しそうだった」
ゆりえ 「会ったんですか?」
医師 「いえ、まだお会いしていませんが、ゆりえちゃんの話だけで結構良い変化が見られることが分かりましたので」
ゆりえ 「……そっかぁ」
医師 「高校、受かると良いですね。勉強でしたら、みますよ?」
ゆりえ 「えへへ、大丈夫ですよぉ。数学は苦手だけど、漢字が得意なので!」
医師 「ふふふ。その意気ですよ。頑張って」




◆数ヵ月後 高校 美術部前
――美術部付近で絵を描いている寛子がいる

寛子 「(上手く…いかないなぁ……)」
ゆりえ 「……あのぉ」
寛子 「……へぇっ!?あ、え、えっと、何でしょうか?」
ゆりえ 「んと……」
寛子 「(絵を見られていることに気づいて)……あっ、いや、ちょっとこの絵はまだ見せられないの!
    み、みみ未完成で、そう、未完成なの!それにちょっと恥ずかしいし…。あ、いや違う違う!違うよ!
    えと、だ、だから、その……絵に興味があるんだったら、先輩たちの絵を見た方がいいよ!勉強になるし、うん……」
ゆりえ 「(じっと寛子を見つめる)」
寛子 「な、何?」
医師F 「『悠斗くんに我が侭ばかりさせるのも駄目ですよ。時にはしっかり教えてあげてください』」
ゆりえ 「……やっぱり、絵がちゃんと描けたら何かを教えることとか、伝えることってしやすくなるのかなぁ」
寛子 「絵で伝える…こと?………できると思うよ。十人十色の考えがあるから
    100%同じことはまず無理かもしれないけど、全く出来ないことじゃないはず。
    それに、自分自身が込めた気持ちは必ず絵に現れる。嬉しかったり、悲しかったり、辛かったり
    どんな感情でもそれが絵の材料になるの。にっこり笑った人の絵を描いても
    書いてる本人が楽しくなかったら、"笑った人"の絵じゃないの。
    でもね、本当に伝えたいことがあれば伝えることができる。そう、私は思うな」
ゆりえ 「へえ…!」
寛子 「あと、中でも分かりやすいのは絵本かなぁ。小さな子向けに描いてるっていうのもあるかもしれないけど
    私が読んでも、大人が読んでも、根本的な深い部分が伝わってくるし。確かに言葉で補助してるけど、それでも……」
ゆりえ 「ねぇ、絵本ってさ。絵が下手っぴでも描けると思う?」
寛子 「あー、下手とかそんなんじゃなくて、絵は表現だと思うから――」
ゆりえ 「わかった!」
寛子 「え?」
ゆりえ 「私に絵を教えてよぉ」
寛子 「お、教えるってそんな、私上手くないし……。教わるならやっぱり先輩とか、美術の先生とか……。
    あ、美術部の顧問の永野[ながの]先生とか上手いんじゃないかなぁ」
ゆりえ 「じゃあ見るのはいい?」
寛子 「いや……」
ゆりえ 「(すごく残念そうな顔で寛子を見つめる)」
寛子 「い、嫌では……ないかなぁ?」
ゆりえ 「やたぁ!!」
寛子 「(恥ずかしくなって)……で、でも、ちょっと見せるだけだからね?私、鉛筆デッサンメインで描いてるから
    綺麗じゃないし、結構地味な絵だし、全然上手くないし……期待しないでね」
ゆりえ 「はぁい」
寛子 「(ふっと笑う)」
ゆりえ 「(笑い返して)私、垣本ゆりえ、よろしくね。あなたは?」
寛子 「あかぼし……、赤星、寛子」
ゆりえ 「(笑って)寛子ね!よろしく、画伯!」
寛子 「……が、画伯とか呼ばないでね!………でも、よろしく」



To be continued.

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