花婿チョップ

 ―The Chop groom―




正一(しょういち) 26歳 男
工場勤務。基本はしっかりとした性格だが少々口が悪く
よく羽目を外す。彼女の楓を溺愛しており
翌日行われる予定の結婚式に色んな夢を抱いている。
ちなみに酒飲み。


喜一(きいち)
正一の中の喜怒哀楽のうち喜の感情。
どんな感情も喜びで表現する。
笑い方に癖があり、常に酒で周りの空気を読めてないような
反応と行動を行わう。大体笑い転げている。


怒一(どいち)
正一の中の喜怒哀楽のうち怒の感情。
どんな感情も怒りで表現する。同じ正一なのに
喜一、哀一、楽一とも馬が合わない。怒鳴るのも愛情です。


哀一(あいいち)
正一の中の喜怒哀楽のうち哀の感情。
どんな感情も哀しみで表現する。常に泣きそうな顔で
よく泣きわめいたり、人生に絶望したりしている。
何故か面倒な役回りになることが多い。


楽一(らくいち)
正一の中の喜怒哀楽のうち楽の感情。
どんな感情も楽しさで表現する。常に今を暢気に楽しんでいる。
喜一と似ているがこっちはワンテンポズレている。


楓(かえで) 24歳 女
正一の彼女でもうすぐお嫁さん。天然系ぶりっ子でリアクションがオーバー。
母親にはお母さんと呼ぶのに、父親には何故かパパと呼ぶ。


楓母 54歳 女
楓の母。旅館の女将。
きびきびとした性格で極めて落ち着いている。
ゆるくて適当な夫によくトゲを刺すように揚げ足をとる。


楓父 55歳 男
楓の父。ゆるくて適当な性格。
それなのに目立ちがり屋なのでよく失敗する。
恐妻家。


正一母 45歳 女
女手一人で正一を育てた。
普通の気の優しい人に見えるが
思い出したくない過去があるようで、精神的に不安定。 たまに暴走する。親バカ。名前は静恵。


ラウンドロビン ??歳(見た目は20代くらい)男
金髪、長髪、天然パーマ、サングラス、黒マントの怪しい中性的な男。
ほとんど詳細不明。話し方はナルシストっぽい。よく笑う。









(所要時間約45分)

6:3:0台本用

<キャスト>
[正一](♂):
喜一(♂):
怒一(♂):
哀一(♂):
楽一(♂):
楓(♀):
楓母(♀):
楓父(♂):
正一母(♀):
ラウンドロビン(♂):


※正一役は喜一、怒一、哀一、楽一の中から1人選出して下さい。
 前半と後半(登場少な目)でそれぞれ割り振っても構いません。


4:3:0台本用

<キャスト>
[正一](♂):
喜一、怒一(♂):
哀一、楽一(♂):
楓(♀):
楓母(♀):
楓父(♂):
正一母(♀):
ラウンドロビン(♂):


※正一役は喜一、怒一役か、哀一、楽一役のどちらかが演じて下さい。










◆夜10時 暗い路地

――まるで乙女のようにスキップしながら帰宅中の正一、酔っている

正一 「(適当に歌う)明日は〜明日は〜結婚式ぃ♪俺と楓の晴れぇ舞台♪
    ……うへへへ、白いドレスに赤いドレスに、でっかいケーキ。
    ドレスのつまみに甘いもの!いやぁ、たまらんですなあ。たまらんですよー。
    そんで終わったら2次会?3次会?そして新居か!?あーまるで夢みたいだなぁ」

――上機嫌の正一の後ろに怪しい気配がする

正一 「ん?なんだ。今後ろに何かがいなかったか。
   (周りを見渡して)ふひ、まっさかなぁ。
    こんな男追いかけても何もねぇしな!さっさと帰って風呂入って寝よ」
ラウンドロビン 「こんばんは」
正一 「ひぃぃ!!」
ラウンドロビン 「どうも」
正一 「どうも。じゃあねぇよ!突然暗闇から現れんな糞が!」
ラウンドロビン 「ああ、これは失礼。以後お話しする際は
          なるべく明るみから声をおかけ致しますね」
正一 「以後ってまた会う予定なんてあんのかよ……」
ラウンドロビン 「さあ、どうでしょう」
正一 「まあいいや。とりあえずさ、俺、明日朝早いんだわ。
    面倒なことに巻き込まれるのはごめんだから――」
ラウンドロビン 「あ、ご挨拶遅れました私、ラウンドロビンと申します」
正一 「は、はぁ。外国人?」
ラウンドロビン 「失礼ですね、ちゃんとした日本人ですよ。
          江戸川区在住の、普通のセレモニーナイフ専門店を経営している――」
正一 「ちょっと待て、肩書きからして怪しいんだけど」
ラウンドロビン 「貴方が怪しいと思われるから怪しいのです。失礼な方だ」
正一 「(むすっとして睨む)……」
ラウンドロビン 「なんで睨みつけるんですか。本当に失礼極まりない」
正一 「だって、あんたがそんな黒いマントとか黒いスーツで暗闇から出てきたからだろ!?
    しかもサングラスだし。もし俺が女だったら即警察行きだぞ!」
ラウンドロビン 「良かった、警察に捕まることはないのですね」
正一 「安堵すんな!」
ラウンドロビン 「(お茶目に)つい」
正一 「まぁ、帰るわ。おまえみたいなのを相手してたら結婚式寝坊してしまう」
ラウンドロビン 「結婚式……。貴方、結婚式と言いましたね」
正一 「そうだよ。明日は俺らの結婚式なんだよ。
    俺が死ぬほど切望していた最高の結婚式なんだよ」
ラウンドロビン 「男性の方で、そこまで結婚式に思い入れのある方に初めてお会いしました」
正一 「そんなに珍しいか?美女とケーキに囲まれたら幸せに決まってんだろ!?」
ラウンドロビン 「率直に申し上げますと変態ですね」
正一 「悪かったな!!」
ラウンドロビン 「そこで、そんな変態な貴方に最高に結婚式にぴったりの商品をご案内致しましょう」

――何の変哲のないが、正一から見ては凄まじく怪しいナイフを差し出される

正一 「ナイ…フ?まさか俺を……(ラウンドロビンに蹴りを入れる)」
ラウンドロビン 「(正一から蹴られて)ううっ!……け、蹴りましたね」
正一 「……あっぶねぇ。危うく刺されるところだった……」
ラウンドロビン 「ち、違いますよ……。これはセレモニーナイフです」
正一 「セレモニーナイフ……?」
ラウンドロビン 「さっき私、お伝えいたしましたよね。江戸川区在住の、セレモニーナイフ専門店経営者、と」
正一 「(思い出したように)……あー」
ラウンドロビン 「こんな極めて貴重なタイミングで出会えたのも何かの運命。
          ささささぁ、私の熱い気持ちのこもったこのセレモニーナイフを使って
          ケーキ入刀……初めての共同作業をこなされてはいかかでしょうか」
正一 「うわぁ、心底気持ち悪いわ」
ラウンドロビン 「なぜです!?」
正一 「血が通ってなさそうな怪しいやつが
    私のぉ〜熱い気持ちがぁ〜とか言ってたらそう思うだろ」
ラウンドロビン 「心外ですね。まあ、いいでしょう。私も大人です。
          貴方の一世一代であろう素晴らしい結婚式のために
          このセレモニーナイフをお渡ししましょう。受け取っていただけますね?」
正一 「やだ」
ラウンドロビン 「さあ、遠慮なさらずに」
正一 「要らんて」
ラウンドロビン 「レアですよ」
正一 「あんたの店に行けばいくらでも手に入るだろ」
ラウンドロビン 「この世に一本しかないのですよ?」
正一 「そりゃそうかもしれないけど、飾りならともかく
    セレモニーナイフ自体に凝る必要なんてないだろ?
    もういいよ、俺早く風呂に入りたいし、他のヤツにしな。
    すっごーくお人好しな人間なんかごろごろいんだぞ。諦めずに頑張ってこいよ、ほれほれ」
ラウンドロビン 「………」
正一 「?」
ラウンドロビン 「(声が上ずりながら)結婚式とは神聖な儀式なんですよ!?
         親族友人だけでなく神からも祝されるような場で、しかも、初めての共同作業ですら
         適当に済ましたいと、そう貴方はおっしゃるのですね!?」
正一 「い、いや神様はともかく、楓との結婚式だし……、手を抜いたつもりは全くない!」
ラウンドロビン 「では、その気持ちに偽りはありませんね!」
正一 「ねぇよ!」
ラウンドロビン 「(咳払い)……わかりました。それでは受け取って下さい」
正一 「わ、わかったよ。受け取りゃいいんだろ、受け取りゃ」
ラウンドロビン 「(興奮して)ありがとうございます……!これで素晴らしい結婚式になるでしょう。
          私は当日拝見できないのが残念でなりませんが、ここで失礼させていただきますね。それでは」
正一 「……。(はっとして)ちょ、ちょっと待て!聞き忘れたことが……」

――ラウンドロビンの姿は既にない

正一 「なっ、もういねぇのかよ……。
   (ナイフを見つめながら)セレモニーナイフ、ねぇ?」



◆翌朝 結婚式会場

「しょうちゃん!しょ〜ちゃぁん!どこいるの〜!?
   私ならここよ〜!隠れてないで出ておいでよぉ〜!
   ったく、もうっ、恥ずかしがりやさんなんだからぁ」
楓母 「朝が苦手だったかしら、正一さんは」
「うーん、確かにしょうちゃんはお寝坊さんだから着替えたまま寝ちゃってるのかも?
  ……あれ?鍵はかけてないね?しょうちゃーん入るよ〜?あ、お母さんも入って入って!」
楓母 「正一さん!私も入りますよ?」

――新郎控え室は静まり返っている

「失礼しまーす!しょうちゃん来たよー?」
楓母 「いないわね。席を外されてるんじゃないかしら」
「そうかなぁ。しょうちゃんトイレかな?それだったらすぐ戻ってくるよね」
楓母 「そうね。せっかくだし、ここで待っていましょう。貴女の花嫁姿、早く見たいでしょうし」
「だーよね!絶対しょうちゃん、目をウルウルさせて泣いちゃうよ!まるでうちのパパみたいにさー」
楓母 「それがお父さんと和解できた一番の理由かもしれないわね。
    きっと式が終わった後もお酒の席に付き合わされるに違いないわ」
「いいこと!いいこと!仲良くないと結婚後も楽しくないしね〜」

――ノックが聴こえる

「あっ?しょうちゃんかな??」
正一母 「ど、どうも」
楓父 「お、楓か?」
「パパ!と、しょうちゃんのお母さん!」
楓母 「貴方。それに静恵さんまでお揃いで、新郎以外の両家が勢ぞろいね」
正一母 「あの、正一はまだ来てないんでしょうか」
「え?しょうちゃんのお母さんも会ってないの?ということは本当にお寝坊さんやっちゃったの!?いやだぁ」
楓父 「さっきからずっと落ち着かない様子でな、式場の人にも聞いたけどまだ来てないそうだ」
楓母 「まあ。携帯は繋がりましたの?」
正一母 「それが……通話もメールも全く応答がなくて――」
楓母 「あら…」
正一母 「い、今までこんなことなかったんです。正一、血液型がA型ってことだけじゃなく
     一つ一つきっちり仕事も約束もこなしていける子で、メールも10分以内で返してくれたり
     電話も仕事中ですぐに繋がらなくてもなるべく早くかけ直してくれたり。
     私が風邪をこじらせた時もいち早く駆けつけてくれるような
     思いやりの心を持った優しい優しい子なんです。
     そんな正一が大切な結婚式にまさか来ない、なんてことは……なんてことはっ!」
楓父 「ま、まあ正一くんのお母さん落ち着いてください!まだ式まで1時間あるんです。
    確かに最後の打ち合わせには遅れてしまうかもしれませんが
    式自体は式場の方に相談すれば少しくらいずらして頂けますよ」
正一母 「そうでしょうか……」
楓父 「きっとそうです。な、なあ?」
楓母 「なぜ私に賛同を求めるの」
楓父 「いや〜、お前にも同意して貰わないと自信がなくなるじゃないか」
楓母 「まあ、頼りないおじ様だこと」
正一母 「正一、正一、正一……」
楓父 「(深いため息)勘弁してくれよ……」

――正一らしき姿を楓が見つける

「ああっ!しょーちゃん!しょうちゃんが来たよ!ほぉら〜早く早く!こっちよぉー!」
正一母 「視力、良いんですね……。楓ちゃん。正一の姿なんてどこにも……」
「ほら、そこ!そこの向こう側ですよう!」
楓父 「いや、こそあど言葉じゃ伝わらんだろ」
楓母 「向こう側ってどちらなの?」
「えー?二人とも見えてないのー?ほら、そこの角!ちょっと私お庭に出ちゃうね!」
楓父楓母 「楓!」
正一母 「楓さん、ドレスが……」
楓母 「裾引きずっては駄目よ!」
楓父 「いやーそのくらい分かってるだろう、楓も」
楓母 「分かってないから言ってるのよ!」
楓父 「……は、はぁ」
「(つまずいて)ひやぁ!」
正一母 「楓さん!」
楓父 「お、おいっ!」
楓母 「ほら、[つまづ]いた。こういうことになるから言ったのよ。
    あなたも楓の行動くらい把握してくださいな」

――遠くで怒鳴り声が聞こえる

楓母 「(少し間を置いて)……今、怒鳴り声のようなものが聞こえませんでした?」
正一母 「は、はい。まるで正一のような、そうではないような」
楓父 「気のせいでしょう」
正一母 「そう、だと良いのですが」
楓父 「なんだか不安そうなのが私にはさっぱりですが、それは杞憂って言うんですよ」
怒一 「(楓父の声をかき消すように)ゴラアアアアアアア!!」
「ひぃぃぃぃぃ!!」
怒一 「ドレスの裾が泥だらけじゃねぇか!!式前に馬鹿みてぇな醜態晒すな!!」
「ご、ごめんなさぁい〜!!」
正一母 「えっ?えっ?正一!?」
楓母 「ん?」
楓父 「なんだあれ」
怒一 「お前なぁ、本当に俺の嫁になるんか!?なぁ、なぁ、なぁ!?」
「な、な、な……(小さく)なり、ます」
怒一 「声が小さぁい!!」
「ひっ、は、はい!」
怒一 「いちいちどもんな!!」
「(号泣)しょ、しょうちゃぁぁぁん!!しょうちゃんじゃないよぉぉぉ!!
   私のしょうちゃんはこんなに怖い顔して怒鳴らないもん!!そうだもーん!!」
怒一 「うっせぇなぁ!!勝手に自分のものにすんな!!思い込み激しすぎだろ、糞が!!」
「しょ、しょ……しょうちゃんの、おたんこナスぅぅぅぅ!!(泣き喚く)」
怒一 「ふん!」
楽一 「まあまあまあまあ〜。気楽に行こうよ怒一くぅん!楓はいつだって可愛らしいでしょ!」
喜一 「うひゃひゃひゃ!確かに泣いてる楓かーわうい!でーも、笑ってる方が個人的には好きかなぁ?」
哀一 「楓が泣いてるなんて……。俺も涙が!もらい泣きやべぇよ……」
楽一 「いやぁ、哀一くん、君はいつだって泣いてるだろぉよ」
哀一 「ちげぇよー」
喜一 「どう見たって俺にも泣いてるとしか思えないなぁ、もっと泣けばいいよ、泣けばいいさぁ」
「(ぐずぐず泣いた後我に返って)……え?あれ?これって、どういうことなの」
楽一 「お〜楓!泣き止んだ〜?いい子いい子してやんよぉ」
「は、はぁ」
楽一 「んー。おっと、何か聞きたいんでしょ?俺、説明面倒くさいから、喜一がやればいいよ」
喜一 「ははぁん!俺か!仕方がないなぁ!これはあれだよ。事故だったんだよ……。あひゃひゃひゃひゃ!」
「事故ぉ!?何があったのしょうちゃん!」
喜一 「そぉ!事故だ!昨夜にへんてこな経営者に出くわして、ケーキカット用のナイフをもらったんだけどさぁ
     ちょっと振ってみたくなるじゃん。夜のテンションだと!」
「なるの!?」
喜一 「なるだろ!それで、振ってたらたまたま転がってたカップ麺につまづいて
    自分を切っちまったわけ!まじおもろいわー!」
怒一 「面白い訳ねぇだろ!!」
哀一 「面白くねぇ……」
楽一 「いやぁ、面白いよねえ!」

――怒一、哀一、納得いかないように唸る

喜一 「うひゃひゃひゃひゃ!そんでもって、なぜか喜怒哀楽それぞれの感情を持った俺たち
    喜一[きいち]怒一[どいち]哀一[あいいち]楽一[らくいち]が生まれちまったって訳。
    ま、そういうことだ!気にせず結婚しよう!
    いやぁ、もう夜からテンション上がりっぱなしなんだよなぁ、抑えきれねぇ」
「え、えと、うーんと」
哀一 「そういえばさ、すごく気になっていたんだけど……
    俺らいつ、元の『正一』に戻れるんだ?」

―― 一同、時間が止まったように無言になる

怒一 「はぁ!?俺ら戻れないのかよ!!誰だよ原因作ったやつ!!」
楽一 「正一」
喜一 「正一」
哀一 「正一」
怒一 「ふざけんな!!俺らかよぉ!!」
楽一 「そーゆーこと!」
喜一 「そーゆーこと!」
怒一 「……そうかもしれねぇけど、なんか腑に落ちないっていうか。
    い、イライラするっつーか」
哀一 「哀しすぎんだろぉ……!(おいおい泣く)」
怒一 「(舌打ち)ったく、うるせぇなお前も!ちったぁ、歯ぁ食い縛れ」
哀一 「無理だろぉ……」

――遠くから見ていた両家両親がやってくる

楓母 「ちょっとちょっと割り込んでもいいかしら」
「あっ!」
怒一 「だーれだぁ、てめぇ!」
楓母 「だ、れ。ですって?失礼極まりないですこと。私は楓の母、風花よ」
怒一 「……はっ!」
楓母 「本当にこんな子にうちの楓をもらわれていっていいのかしらねえ」
「しょ、しょうちゃんは悪くないよ!悪くないもん!」
楓母 「あら、そう?」
楓父 「まあまあ、そう怒らなくてもいいだろう。
    いや、それにしても、これは……なんというか、幻でも見ているような感じだなぁ!」
正一母 「あの、えっと、貴方たち皆、正一、だったりするの?」
喜怒哀楽一 「そうだ」
楓母楓父正一母 「は、はぁ……」
正一母 「きっと頭がおかしいだけなんですよ、私。正一が4人にぶれて見える……」
楓父 「(頬をつねって)んー。ちゃんとつねったら痛いし、感覚があるんで夢じゃないですよ」
正一母 「そう、でしょうか。そうだと良いのですが」
楓母 「とりあえず、正一さんをどうにかしてくれないかしら、静恵さん」
正一母 「へっ?え、ええ……。どうにかとは、どういう……」
楓母 「初めて対面した時は、もっと素直でしっかりしたお方だったじゃない。
    それなのに、今日のこの状態は何なのかしら」
正一母 「そ、そう言われましても……
     私も現状を把握するのがいっぱいいっぱいと言いますか……
     混乱していると言いますか……」
楓父 「ちょっとお前も責め過ぎだろ。状況をまず考えてみろ」
楓母 「確かにそうでしょうけど、おかしいじゃないの」
楓父 「うーん。(正一たちを見て)再三確認して悪いけど、君たちは本当に正一くんなの?」
楽一 「そうですよー。どこをどう見てもそうじゃないですか!」
喜一 「俺が正一じゃなかったらいったい何なんですか、面白すぎるじゃないですか!」
哀一 「楓のお父さんにまで信じてもらえないだなんて
    なんて哀しいんだ……。どうしたらいいんだ……」
怒一 「だから!正一だっての!そうじゃなかったらこんな所に来るほうがどうかしてる!」
楓父 「楓のことは?」
喜怒哀楽一 「(揃わず)好きに決まってるじゃないですか」
楓父 「うんうん。見事にばらばらだね。正一くんなんだけど正一くんには満たないってところだ」
喜怒哀楽一 「み、満たない??」
楓父 「そうだ。君たち全員揃って初めて正一くんであるはずなんだ。
    だけど、今は4分の1でしかない。
    それじゃあ、もし、楓が襲われた時、君は守ることができるのかな?」
喜怒哀楽一 「守れ……」
哀一 「守れる自信がな(ボディーブロー食らう)……ぅ!」
怒一 「やかましいわ!!」
哀一 「(ひるむ)」
喜一 「うひゃひゃひゃひゃ!たかが4分の1、気にすることなんてないですよ!」
楽一 「そうですそうです!その程度のことが出来なかったら、男失格じゃないんですか!」
怒一 「まぁ、俺も同意見ですけどね」
楓父 「なるほどねえ。よし。では一つ僕から提案してみようか。誰か結婚相手にふさわしいか」
喜怒哀楽一 「ん?」
楓父 「君たち、4人の中で誰に楓をお願いするのが一番適任か」
喜怒哀楽一 「……は?」
正一母 「え…?」
楓母 「それ、正気で言ってるの?」
楓父 「もちろんだとも。僕が正気じゃなかったことなんて、今までなかっただろ」

――変な間

楓父 「(不自然な咳き込み)あ、ああ、あああ。いい天気だなぁ〜!楓!」
「……いくら私だって残念だよぉ」
楓母 「そうよね」
楓父 「ひどい!うちの女性陣は全くもってひどい!
    いったい誰が飯を食わせてやっとると思ってるんかな〜」
楓母 「(にらむ)」
「(へらへらしている)」
楓父 「……はぁ、もういいさ。とにかく、結婚相手を決めるのが先決だ。静恵さんもそうでしょう」
正一母 「は、はあ、まあ……そうですね」
楓父 「よし、両家の考えが一致したということで、とりあえずこの場合は……楓、お前が選ぶんだ」
「へぇっ!?私が!?4人ともしょうちゃんなんだよ!?
   いや、しょうちゃん……なのかなぁ。う、うん。
   でも全員しょうちゃんなのにその中から一人のしょうちゃんを選ぶなんて絶対おかしいよ!」
楓父 「いいや、楓。女尊男卑[じょそんだんぴ]の現代に生まれ育ったからこそ、この選択だ。
    もし、大正、明治、いいや、もぉーっと大昔に生まれていたら
    こんな待遇は受けられなかったと思うぞ。心して選択するんだ」
「う?うん」
正一母 「(はっとして)そうよ、楓さん。色んな正一を選び放題なの。より取り見取りなの。
     竹取物語で例えるならば、あなたはかぐや姫!あれやこれやとわがままし放題!
     好き放題しちゃって帰ったって許されてしまうのよ!
    (またはっとして)なんて……なんて贅沢な子なの!信じられない!嫉妬してしまうわ!」
「私は、そこまで考えてないですよぉ!」
正一母 「嘘よ!」
「嘘じゃないですよぅ!」
正一母 「嘘じゃないならなんだって言うの!私から正一を奪っておいて!ひどい!ひどすぎるぅ!」
「ひどくないですぅ!」
正一母 「(ぜぇぜぇいう)」
「(困っている)」
楓父 「静恵さん、どうどう」
楓母 「そんなことやったって、静恵さんの嫉妬は治まらないでしょ」
楓父 「そう言われてもなあ。納得してくれたでしょ、初対面のとき。
    その時に首を縦に振ってくれたのは彼女じゃないか」
正一母 「(呼吸を整えて)あの時は…」
楓父 「あの時は?」
楽一 「酔ってたんだよね!」
正一母 「!」
哀一 「しかも二日酔い」
怒一 「しかも寝違えて首が縦にしか振れなくて」
喜一 「結局、承諾するしかなかったんだよねえ!あひゃひゃひゃひゃ!
    ちなみにあそこまで飲んでたのは、俺には結婚して欲しくなかったってだけの理由!
    結婚くらいさせてくれたっていいのにな!」
「え……。ちょっと待って?それって実は承諾なしに結婚が決まってたってことなの?」
喜怒哀楽一 「う」
楓母 「あら」
楓父 「でぇ!?」

――静かに正一母に視線を送る楓一家、あさっての方向を見ている正一たち

正一母 「え、えっと……断り、切れなくて……
     あの状況で断れるはずなんてなかったじゃないですかぁ」
楓母 「いえ、こういう話が出る前に断っておくものでしょう」
正一母 「です…が……」
楓父 「ほお。じゃあ、どの正一くんと結婚するか以前の問題でしたか。
    結婚式はキャンセルですかね〜」
喜怒哀楽一 「え」
「えーっ」
楓母 「キャンセル料が!」
楓父 「おまえなぁ……」
正一母 「(被せるように)私もお金がありません!」
楓父 「いやぁ、静恵さんも……」
怒一 「いいや、結婚式はそのまま行ってくださらないと困ります!
    なんのために準備をしてきたのか分からないじゃないですか!」
楽一 「俺も今日のこの日を待ってたからなあ、困るなあ」
哀一 「俺も……困ります。折角、折角ここまで頑張ってきたのに水の泡になるなんて……ショックで立ち直れない」
喜一 「あはははははっ!なんだかこういう展開になってくると余計に笑えてくるよ!
    でも断固結婚式決行でお願いしますよ!」
楓母 「正一さんたちは結婚式は譲れないそうですよ」
楓父 「こうなると、静恵さんと正一くんとの話し合いになりますねえ」
「ここまで準備してるのにぃ!?」
楓母 「しっ。残念だけどあとは正一さんと静恵さんの決断次第よ。
    もしもの時は……そうね、好きにしなさい」
「お母さん!?」
楓母 「驚くこともないじゃないの、あくまでも『もしも』の時よ。まずは静恵さんの話を聞くこと。
    ねえ、静恵さん、正直に答えて御覧なさい」
正一母 「はい…」

――少し間を置いて

正一母 「……正一、あのね。落ち着いて話を聞いてほしいの」
喜怒哀楽一 「ん?」
正一母 「実は小学校時代の宿泊訓練にしても、中学校の職場体験にしても
     高校のスキー実習にしても……。ずっとずっと心配で……その」
喜怒哀楽一 「?」
正一母 「大体の行事には、こっそりついて来てたのよね。ごめんなさい」
喜怒哀楽一 「!」

――楓、楓父も驚く。楓母冷静に見ている

正一母 「気持ち……悪い、のはよく分かってるのよ?
     でもね、正一、小さいころ結構病弱っていうか
     何をするにも見てないとって思わせるような感じだったし。
     中学校の時だって結局修学旅行行けなかったでしょ?」
楽一 「いやぁ、行けなかったけどさー、その頃には健康だったと思うよ?」
哀一 「……クラスのやつらが気に食わなかっただけ」
喜一 「まあ、行かなくて正解だったね!」
正一母 「そう…なの。だけど、高校の時だって喘息で吸入器手放せないときだってあったし
     やっぱり私が見ていないと駄目じゃない。そういうことがたくさんあったでしょ」
怒一 「……ぐちぐちぐちぐち。いい加減にしろよ。俺が親元から離れて何年だよ。
    余裕で5年超えだろ、それだけ離れて暮らしてたら別にいいだろ。
    私がいないといけないとか、なんで決め付けられないといけねぇんだよ」
正一母 「(ぐずる)正一。私、正一が大好きなのに!なんでこの気持ちを分かってくれないの……!
     本当は、本当なら、私が結婚したって良いくらいなのに!
     どうして違う子と結婚しちゃうの!?やっぱり、若い子がいいのよね、知ってる。
     私知ってるわ。男の人はみんなそう。ヒロヤスもそうだった」
喜一 「だからって俺関係なくないか〜?」
正一母 「関係なくない」
哀一 「いや、実子に言ってどうする」
正一母 「親と子なんてたいした壁じゃないし……」
楽一 「いや、たいしたことだろ」
正一母 「……。結局、ヒロヤスとの子だからこういうことになるのね、残念……」
怒一 「お前馬鹿だろ。自分で結婚許可しといて、今更これかよ。
    呼ぶんじゃなかったよ、結婚式ぐらいいいかと思ったんだけどな。
    帰れよ。結婚式はやる。お義父さん良いですよね?」
楓父 「あ、ああ。もちろん」
喜一 「プランナーさんたちもすんげぇめんどくさそうにしてるし
    さっさとやりましょうよ!な、楓!」
「う、うん」

――式場奥から物凄い音がする

正一母 「きゃっ!」

――自分だけ隠れる正一母

哀一 「ひぃ!」
楓父 「おおっと?」
楽一 「おおぅ?なんだか面白そうな音がしてきた!」
喜一 「うひゃひゃひゃひゃっ!」
楓母 「何なの、一体……」
怒一 「なんだ?ようやくまとまり始めたタイミングで……」

――扉を勢いよく開けて、ラウンドロビンが登場する

喜怒哀楽一 「あ!お前はぁぁ!」
「……あっ」
ラウンドロビン 「はい、ごきげんよう。またお会いしましたね」
怒一 「挨拶はいいから、戻せ!」
喜哀楽一 「戻せ!」
ラウンドロビン 「あらまあ、よく見たらこんなにも増えちゃって?結婚式前に気合い入れすぎちゃいました?」
怒一 「お前なぁ!なんであんなもん、俺に寄こしたんだ!
    おかげで俺がなぜか4人になっちまって、結婚式しようにも4人と1人じゃ
    おかしいっていうか、無理っていうか、できないっていうか、一体全体どうなってんだ!?」
ラウンドロビン 「あんなもん、って。あれは高級品ですよ?
          私があなた方の幸せを祈ってお渡しした、セレモニーナイフなのですよ。
         (電卓を取り出して)本来ならば……そうですね、このくらい」
怒一 「なっ!」
喜一 「おぅふ」
哀一 「嘘だろ……」
ラウンドロビン 「ま、これでも妥当な価格設定ですよ。
          しかしながら、ケーキ入刀のためだけに作られておりますので
          日本刀の美しさには確実に劣りますが。
          材料自体が極めて手に入れにくい関係上、このようになっております」
「あ、あの、それって…ダイアモンド、ですか?」
ラウンドロビン 「ええ。混在しておりますよ。流石に100%は難しく、微量ですが。
          さあ、正一さんでしたね、申し訳ありませんが、私からも貴方にお願いがあります。
          昨日お渡しいたしました、そのセレモニーナイフをお返し頂きたいのです」
楽一 「どうするよ?」
喜一 「うひゃひゃひゃひゃ!どうしよう」
哀一 「俺に聞かれても……」
怒一 「……無理だ!」
ラウンドロビン 「(ため息)仕方がありませんね。
         これではお二人を祝福することは不可能のようです」
喜怒哀楽一 「は?」

――視線を変えるラウンドロビン

ラウンドロビン 「そうですよね?」
「へっ?私??え、しょうちゃん!?」
ラウンドロビン 「ええ、貴女です。……さて、ご両家の方々、ご覧頂いておりますように
          正一さんは私が『お渡ししただけのセレモニーナイフ』
          つまり、レンタルしたケーキ入刀用ナイフ"かっこ高級品かっこ閉じ"を
          返して頂ける状況にありません。返していただけないということ
          イコール、私から元に戻る方法をお伝えできないということになります」
喜怒哀楽一 「!」
「そんなぁ……!お母さん!パパぁ!」
楓母 「うーん。戻してもらえるなら返した方がいいでしょう?
    正一さん、他に代えられるものがないわ、諦めましょう」
楓父 「確かにその方が早いだろうなあ。わざわざ4人で競わなくたって結婚ができるんだから」
楽一 「あ、あー、あははははは!あははははは!え、えーと。どうするかなーブラザー!」
怒一 「(舌打ち)ど、どうするっていうか、どうするよ」
喜一 「あっひゃっひゃっひゃっひゃっ!もういいや、お前が答えろよ!俺はめんどくさい!」
哀一 「お、俺ぇ!?な、なんで俺が俺らの代表なんだ……」
「なんでそんなに困ってるの?
   喜怒哀楽に分れてるって言ったってしょうちゃんらしくないよ!
   良いじゃん、しょうちゃんが考えてることを正直にそのまま言えばいいんだよ!
   ほらほらぁ〜」

――喜怒楽一が哀一に【咳払い】で圧力をかけている

哀一 「え、えっと………
    その、実は、そのナイフを使った後、怒って勢いで投げたんだ……ベランダから」
「ええええ!?」
ラウンドロビン 「あああ貴方、危ないじゃないですか!」
楓母 「ということは……ここにはなくて」
楓父 「正一くんの自宅の近くに落ちているってことか」
「……。うふふ、私てっきり、しょうちゃんが本当はマザコンで
   ぎりぎりになって結婚式したくないとか言い出すんじゃないかと心配しちゃった。安心!」
楽一 「それはないだろ〜」
喜一 「いやいやいやぁ、ないだろう普通!もう今すぐにでも挙式してくれ!」
哀一 「楓が嫌な気持ちにならなくて、安心……」
怒一 「あったりめーだろ!俺の楓は俺のことを信じてんだよ!」
「(ひどく感激して)しょうちゃん!!」
ラウンドロビン 「仲が深まってるのは非常に喜ばしいことではあるのですが
         セレモニーナイフはなぜお返し頂けないのでしょうか。投げたからですか?」
楽一 「あー、大体どこに投げたかも分かんねぇしなぁ」
哀一 「あ、ナイフって高級品だけど……そもそも脆い造りっていうし
    12階から落としたし、ちゃんと形が残っているかどうか……」
怒一 「糞!なんで投げたんだよ!あの時投げる必要なんて何もなかったくせに!
    はぁー、ますますめんどくせぇことになってんなあ」
喜一 「うひゃひゃひゃっ!そもそも感情任せに投げたのは怒りの感情のお前しかいないだろ!」
怒一 「違うわ!俺自身の責任!連帯責任っていうんだよ!」
喜哀楽一 「はぁ?」
ラウンドロビン 「はいはい、そこまで。自分同士で簡易喧嘩[セルフ バトル]しないでください。
          つまり貴方がおっしゃいたいのは、ナイフが破損している可能性は否めないから
          ナイフは返却できない。そういうことなのですね」
哀一 「そ、そう、だけど……!」
ラウンドロビン 「……かしこまりました。では、こうしましょう。
          まずひとつ、結婚式は挙げましょう。その2、セレモニーナイフが紛失
          もしくは破損している場合、なかった事に致しましょう。
          それから、その3……楓さんは私と挙式致しましょう。
          この条件を飲んでいただけることで、今回の件は丸く収まったということで――」
「……え?」
喜怒哀楽一 「!!」
怒一 「何言ってんだてめぇ!!」
楽一 「何言ってんだかさっぱりだ!!」
哀一 「く、くそぉぉぉぉぉ!」
喜一 「う、はっはっはっはっ!訳わかんねぇこと言うな、ど阿呆が!」
ラウンドロビン 「っと、胸倉掴まないでくださいね。(のらりと攻撃を潜り抜け)
          楓さん、私は、こういう者です(名刺を渡す)」
「え、名刺……?うーんと、有限会社ASプランニング
   代表、五十嵐智弘[いがらし ともひろ]……さん?え、社長さんなんですか!」
ラウンドロビン 「ええ。怪しいでしょうけど、いちおう社長を名乗っております。
          昨年度やっと年収1億超えたところなのですよ。
          まだまだ大手には届かないとは言え、ちょっとかっこいいでしょう」
「(目を輝かせながら)かっ、かっこいいです!!!」
ラウンドロビン 「ふふん」
喜怒哀楽一 「(どこか引いたように)え、えー……」

――呆然としている両家親たち

怒一 「ちょ、ちょっと待てよお前!
    たっ、確かラウンド"うどん"とかなんとか名乗ってなかったか!
    詐欺と強盗で訴えるぞ!!」
ラウンドロビン 「詐欺と強盗……って、その罪には問われませんよ、流石に。
          それに私は嘘は申しておりませんよ。『ラウンドロビン』とは私の幼名[ようみょう]ですから」
喜一 「うっひゃっひゃっひゃっ!幼名!」
楽一 「いやぁ今時、幼名って、いやぁ、幼名ってどうなんだ〜」
ラウンドロビン 「笑わないでください!……ほら、幼稚園時代の名簿にだって
          ラウンドロビンとして載っていますし!」

――突然差し出された古びた幼稚園の卒業アルバムに
  しっかりとひらがなで『らうんどろびん』と記されている

「わあ、本当だぁ!この時代でも幼名ってあったんですね、私びっくり!」
哀一 「本当なんだ……いや、なんで今持ってる」
怒一 「じゃ、じゃあ、なんでわざわざ幼名を名乗るなんて不可解なことをするんだ!」
ラウンドロビン 「ああ、それは至って単純ですよ。
          あの時は暗闇からお声をかけておりましたし
          さぞかし怪しく見えたでしょうから機転を利かせて、こちらを名乗ったのです」
怒一 「いや……、そっちの方が怪しいだろ!」
ラウンドロビン 「あら、そうでしたか。(お茶目に)これは失敬失敬!
          ……ああ、そうだ、結婚式を挙げるんでしたね。マドモアゼルお手をどうぞ」
「はぅ、はい!」
ラウンドロビン 「長居が過ぎましたね。では、正一さん。私はこれにて」
「"正一くん"ばいばーい」

――颯爽と会場の中へ消えていくラウンドロビンと楓

哀一 「……う、ううう、嘘だぁぁぁ(号泣)」
楽一 「俺はなんだか楽しくなってきたんだが!あはははっ、あはははっ!!」
怒一 「俺、怒る気力さえもねぇ……」
楓母 「残念だったわね、正一さん。
    あの子は変人であればあるほど気に入ってしまうタイプらしくてね
    この人って思ったら切り替えちゃうのよね。では式を見てくるわね」

――何も気にせず扉が閉まる

喜怒哀楽一 「!」
楓父 「まあ、人生いろいろ♪ってことだなあ。女は星の数ほどいるっていうし
    機会があったら再アタックも良いんじゃないかな
    お義父さんは君みたいな子を応援してるよ!それでは」
喜怒哀楽一 「おとうさんっ……」

――哀しく閉まる扉

正一母 「正一」
喜怒哀楽一 「!」
正一母 「良かったわね、正一。これで晴れてフリーね。お母さん、嬉しいわ……」
喜一 「あはははははっ!」
楽一 「い」
怒一 「や」
哀一 「だぁぁぁぁぁぁ!(泣き叫ぶ)」



◆早朝 正一宅
正一 「あああああああああああ!
   (荒い息)……なんだ、夢、か。夢かよ!!
    あ、そういえば、結婚式だな……結婚、式……」

――怖い形相でベッドの上から見つめる楓と正一の視線が合う

「しょう、ちゃんの……。しょうちゃんの……。馬鹿ぁぁぁぁ!!!
   予約の時間過ぎても新郎が起きないから中止になっちゃったよぉぉぉ!!(張り手)」
正一 「(張り手を食らって)うべはっ!!俺、寝坊してたのかっ!
    今から謝ればなんとか……!」
「無理だよ!無理無理!午後からも式場埋まってるもん!
   もうぅ、しょうちゃんったらお寝坊さんどころじゃないよ!
   ……し、心配したんだからぁ!」
正一 「(突然笑いがこみ上げて笑い出す)」
「笑わないでよ!そのまま起きなかったらって思ったら、私どうしようかと」
正一 「ごめんな。そんなに心配させて。
    式場がキャンセルになろうが、結婚式くらいどこでだってできるから」
「で、でもぉ」
正一 「幸せにする」
「……う、うん。(恥ずかしそうに)アリガト!こちらこそ幸せにしてください!」


end of the story.

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