成人の儀式(イニシエーション)

 ―initiation―



new→《当台本を利用してくださってる方へ》




イザナ 17歳 男
大富豪シギの長男で、何不自由なく生活してきた青年。いちおう主人公。
自他共に冷静な性格だと思い込んでいたが、そうでもないことに気づく。
割とツッコミ役。


ウズメ 16歳 男
村の集落に住む青年。成人したくないあまりに荷物を抱えて国から逃げ出そうとしているが
大柄で目立ちすぎるため、いつも逃げ出す一歩前で捕まえられる。
『だってーの』が口癖。少々ヘタレ。


ハヤアキ 16歳 男
村の集落に住む青年。自給自足の生活を営んでいるため、なんでもこなせる。
ただし、話すことに自信がないのでどもること多々。
訛りが激しいが、不可解なことを話そうとも常に一生懸命。
最初の台詞にとぶ


ロク 23歳 男
英国風にいえば、バトラーという職業。
いちおうイザナを生まれた頃からお世話をしているはずの1人。
通常下級のお手伝いさんであるはずだが、あまりにだらしないためか、外出する度に問題を持って帰っていた、問題児。お調子者。
個室を持たせてある意味軟禁されている。つまり、名前ばかりのバトラー。
雇わなければ良いのに。しかし、今回いつの間にかある理由から軟禁から解放される。


シギ 34歳 男
大富豪。イザナとトルスタの父。渋い。
真面目な面もあるが、時折お酒が入っているのかと思われるくらい笑い上戸で
本気で言っているのか冗談で言っているのかが、分からないことがある。
現在は働くことに"飽きた"らしく、屋敷でのんびりと暮らしている。
最初の台詞にとぶ


ダゴン ??歳 男
成人の儀式執行主。黒い布で全身覆っているので見た目が非常に怪しい。
この道に入って長く、儀式進行には慣れており、若干悪役っぽさを楽しんでいるように見える。
(お爺さんっぽくするかは演者さんに任せます)
最初の台詞にとぶ


ヘザ 19歳 女
男勝りで手厳しい女性。ダゴンの下で役人として働いている。
なぜか、かっこつけている(もしくはカッコイイ)男が大嫌い。
ちなみに成人の儀式済み。


カヤノ 33歳 女
イザナの家に仕えている家事炊事洗濯なんでもござれのハウスキーパー(メイド長)。
ご主人様(シギ)に関すること・者、全てを溺愛している。ゆえにクール&ハイテンション。
ついでに涙もろい。
※私=わたくし


ミチラ 16歳 女
141cmの低身長・頑張り屋新米メイド。姿が見えないときは足音で判断されるちょっこっと可哀想な子。
しかし、屋敷の誰よりも力持ちで身軽なため、屋根の修繕やらなんやら頼まれる。
怪力スイッチが入ると記憶が飛ぶ。


トルスタ 14歳 女
大富豪シギの長女。つまり、イザナの妹。非常にブラコンで丸々としている。当たり前だが、食いしん坊。
空腹になると、イザナか近くにある可愛いと思ったものを抱きしめる。
わがままだが愛らしい娘ではある。







<簡易世界観および設定>

・架空の18世紀末欧州、東の国が舞台。
・東の国では、17歳で成人、14歳で準成人となる。
 準成人から住み込み労働が可能。
 成人から国外に出ることが可能になり、自由労働も可能となる。

※簡易関係図

リスナーさんは台本を見ず、聞いていただけるとより楽しめます。
演者さんは最後の方の台本チェックを省くとより楽しめます。










6:4:0台本(所要時間:約40分)

<キャスト>
イザナ  (♂):
ウズメ  (♂):
ハヤアキ(♂):
ロク   (♂):
シギ   (♂):
ダゴン  (♂):
ヘザ   (♀):
カヤノ  (♀):
ミチラ  (♀):
トルスタ (♀):










◆東の国 早朝 イザナの部屋の前

――ドアのノックにしては激しい音がイザナの部屋に鳴り響く

ミチラ 「(ノックをしたり、とめたりしながら)あれ……なんだっけ。んと、あー、イザナさんっ。イザナ坊っちゃんっ。
     朝食の準備ができましたので、出てきてください!――あぁっ、おはようございます」
イザナ 「(キョロキョロと声の主を探すように)えーなんだ、あなたか。おはよう。今から行くってあの人に伝えてくれ」
ミチラ 「かしこまりました。今日はなにやら重要なお話があるとかなんとかで、ピリピリしてらっしゃいますから、気をつけてくださいね」
イザナ 「わかった。それはともかくだな…」
ミチラ 「なんでしょう?はっ、もしかして、ついに窓際付近の天井に穴が空いちゃいました?
     最近、雨漏りがどの部屋も凄いんですよね〜。食事中に直しておきますので、少々お待ちくださいね」
イザナ 「いや、違うんだ。そこにいるトルスタ、先にイスに座らせておいてくれないか」
ミチラ 「ん?あらあら、こんなところにいらっしゃったんですね?」
トルスタ 「うぬっ」
イザナ 「あなたは、背中に乗った肥満児にも気づかないのか」
トルスタ 「おにぃーちゃん。メイドさんをまたいじめているの?
      ひどいなぁ、これだから二つ上のヘザさんにも相手にされないのよ」
イザナ 「(舌打ち)いじめてなどいない。まずは、ミチラから離れろ。
     いくら化け物じみた力の持ち主だと知っていても、その状態だと彼女の首がしまるだろう」
ミチラ 「大丈夫です〜、いつものことですから。どうぞお気になさらず」
トルスタ 「ねー」
ミチラ 「はい〜」
イザナ 「……」

――笑顔で首をかしげているミチラのもとへ長身のメイドがやってくる

カヤノ 「ミチラ、そこで何をしているの。イザナ様をお呼びしたの?」
ミチラ 「はい、準備されている途中だったようで、すぐに食卓へ向かうそうです」
イザナ 「すみません、カヤノ。余計な立ち話をさせたようで。次の仕事をさせてください」
カヤノ 「いえいえ、良いのですよ。このカヤノ、イザナ様のためなら火の中、水の中、海の中、山の中
     地球の裏側、宇宙の果てに飛ばされようとも[]い上がってでも、ご奉仕させて頂きますゆえに!」
イザナ 「返答おかしくないか」
トルスタ 「カヤノ、かっくい〜」

――トルスタに褒められて目を真っ赤にして喜ぶカヤノ

カヤノ 「さ、ミチラ。トルスタ様をお連れしたら、紅茶をご用意なさって、それから気合を入れて広間の大掃除を頼むわね!」
ミチラ 「がんばりますね〜。ではでは、トルスタちゃん、行きましょうねー」
トルスタ 「あーい、競走馬ミチラちゃん、いけぇ〜ファイヤーシルバ〜!」
ミチラ 「えへへ、もう、痛いですよ〜」
イザナ 「……」

――妙な気分になりつつも、部屋へ戻り、窓を開けるイザナ

イザナ 「(今日もいい天気だな。ん、なんだあれは)」
ウズメ 「だーかーら、おいらは旅に出たいだけなんだってーの」
ダゴン 「それはならん、成人の儀式を受けてないものは、卵からかえったばかりの[ひな]同然。
     すなわち、あらゆる危険に太刀打ちできる能力を備えてないということだ。よって、ここから出ることは許さん」
ウズメ 「そんなぁ。もうおいらは16っすよ、16。しかも、明後日で17歳、成人なんです。
     たかだか1歳足りてないくらいで雛扱いされたら困りますけどねー」
ダゴン 「もちろん、おまえは歳の問題もあるが、何度もいうように儀式を済ませておらん。
     だから、明日行なわれる儀式を受け、私と国の者に認められてから出て行くんだな」
ウズメ 「ええー」

――ダゴンの隣にいたヘザがウズメに剣の刃先を向ける

ウズメ 「ひぃぃ」
ヘザ 「黙れ。私に負けるようでは旅など出さん」
ウズメ 「で、でも…」
ヘザ 「うるさい。一昨年、私も儀式を受けた。
    そして、ダゴン様や国にようやく認められてこの役目を任されるまでになったのだ。
    おまえにこの苦労が分かるか、この地位に上るまでにどんな思いをしたかおまえに理解できるか。
    …いや、わかるまい。なぜなら、おまえなど成人の儀式を受けていないひよっこだからな」
ウズメ 「ひどい言い様…。――わかったっすよ〜。成人の儀式とやら、受けたらいいんでしょ、受けたら」
ヘザ 「ふん、言うことを聞くならいいのだ。ならば、明日の儀式を参加する契約を結んでもらおうか…。ダゴン様、契約書と判を――」
ウズメ 「ちょっと待った。その前に聞かせてもらいたいことがあるだけどさぁ。
     なんで世の中の大人は儀式を受けたはずなのにその内容を明かそうとしないんでしょーか?」
ヘザ 「なっ。貴様!」
ダゴン 「ヘザ。もう乱暴はよせ。おまえも思うところがあるのだろうが、未成年を不安にさせてはならん」
ヘザ 「はい…」
ウズメ 「不安?どんなことやらかすんだ。…よし、契約しないやーっと」
ダゴン 「小僧!」
ヘザ 「ふ、不覚」
ウズメ 「安心しなってーの。家に帰らせてもくれないんですかー。そんじゃあねえ」
ダゴン 「く……」
ヘザ 「申し訳ありません…」
ダゴン 「(上から様子を見ていたイザナに気づく)」
イザナ 「……ん、まずい(隠れる)」
ダゴン 「そこの屋敷の奴が見ておる。戻るぞ」
ヘザ 「わかりました。(富豪の子…。あいつか、気に食わん)」

――ダゴンとヘザが去る

イザナ 「………」
ロク 「腕、かいぃ〜」
イザナ 「………」
ロク 「どーしたの。深刻な顔しちゃって」
イザナ 「……いつからいた」
ロク 「ばれちゃった。あ〜たった今来たのさ。どう?これなら文句ないっしょ?」
イザナ 「最近やたら部屋から抜け出していること、言うからな。あと、腕かゆいの分かったから掻くな」
ロク 「やだなぁ、もう。軟禁されていても、僕はとりあえずはバトラーなの。さぁて、そろそろ朝食食べたら?
    大切なお話とやらがあるんでしょ、おとーさまから。いやぁ、かゆいかゆい…」
イザナ 「……」


◆数分後 ダイニング

カヤノ 「イザナ様、お待ちしておりました。こちらのお席にお座り下さい」
トルスタ 「お兄ちゃん遅いよ〜せっかくのスープ冷めちゃってるよ」
カヤノ 「大丈夫です、トルスタ様。冷めたスープはミチラが下げますので」
トルスタ 「もったいなーい。あたしが頂くから下げないでよー」
カヤノ 「はい、はい。ではミチラこちらは下げないで、空になった方を下げて」
ミチラ 「わかりましたー」
シギ 「おはよう、イザナ」
イザナ 「…おはよう」
シギ 「なんだ、元気がないな。熱でもあるのか」
イザナ 「いや、そういうわけでは」
シギ 「ふむ。それならいいが。そう、イザナに大事な話があってな。恐らくおまえも知っているだろうが、儀式のことだ」
イザナ 「……」
シギ 「参加者は、今年17歳になる者、全て。もし参加をしないようならば鞭打ちの刑に処される」
イザナ 「儀式の内容は…」
シギ 「極秘。申し訳ないが、私の口からは言えない。もし詳細を話してみろ。この家など木っ端微塵だ。
    ……だーはっはっは!そうなったら愉快だな、愉快愉快…ぬっ!紅茶が気管にぃ」
ミチラ 「ご主人様!お手拭を!」
シギ 「(咳き込む)お、おおお、すまんな。ミチラ、助かる。ん、んんん。
    よし、これで大丈夫だ。それで、まぁなんだ。そこで相談があるんだがな」
イザナ 「はい」
シギ 「非常に面倒くさいので、屋敷ごと引っ越そうと思う。西の国に」
イザナ 「なっ」
トルスタ 「西ー?なんで西なのぉ?」
カヤノ 「なぜでしょうね。ブドウの産地が近いからではないでしょうか」
トルスタ 「ブドウかぁ、あたしブドウ好きだから引っ越してもいいかなぁ。それにジャムにしたら絶対おいしいと思うなぁ」
イザナ 「引っ越すって…夜逃げだろ……」
シギ 「夜逃げ?そんな悪いものではないぞ。
    単に私がその儀式が面倒くさいからおまえに参加させないだけで、あとは好みの問題だ。
    自然豊かな西の国の方がしきたりも甘く、楽しく暮らせるだろうし」
ロク 「人生楽しい方が断然お得よ?ってね」
イザナ 「――おいロク、おまえ何やって…」
ロク 「なんで自室軟禁されてないのかって?
    だって、ご主人がおっしゃったように引越しするからさ。だから呼ばれてきたところ。
    あと、そうだ。イザナ…というより、ご主人にお願いがあります!」
シギ 「なんだ。バトラーをやめる以外でよろしく頼む」
ロク 「やめませんよ〜。実はですねえ、何でも出来る少年を拾いまして
    その子がぜひともここに勤めたいと言ってるんですよ〜」

シギ 「ほう。それはいいな。ただ、そんなに人手には困ってないからなぁ。どうするべきか」
ロク 「いやぁ、そこをなんとか出来ませんかねー。あ、ほらぁ、きみ、ご主人の前に出て頭下げるう」
ハヤアキ 「………ぴ、ぴ、ピリカラ!」

――静かになるリビング。トルスタがスープを飲む音だけが響く

シギ 「……なんだろう。面白い言葉なのかどうか、考えてしまったんだけど、全然違ってたな」
ロク 「考えるところではないです、きっと!さあさあ、口下手かもしれないけど、挨拶してごらん。ハヤアキくん」
ハヤアキ 「あ、う、え、あ。か、かけきくけこかこ……モンゴリアンチョ――――ップ!…ハヤアキです」

――再び静かになるリビング。

ミチラ 「?トルスタちゃん、音を立てないように気をつけましょうね〜」
カヤノ 「――ま・ず・はっ!挨拶がなってなーい!」
ハヤアキ 「へっ、うっ、あっ…」
カヤノ 「なぜ、なぜなの?ロク、貴方、この子がなんでもできると言ったわね!
     なのに、なのに、挨拶すらできないだなんて………教育に時間がかかるではないのっ。
     ああっ、残念極まりないわっ!」
ロク 「あはぁ、申し訳ないです。でも料理は上手いし、洗濯も手洗いなのにピッカピカにするし、片付けも早い。
    まるでカヤノさんのような素早さでしたよ」
カヤノ 「(呆れて)まさか」
ハヤアキ 「え、う。ま、まかせてくだせえ」
シギ 「おお、しゃべった」
ハヤアキ 「ぼ、僕はぁ、こんなすんげえお屋敷なんてぇ初めてでぇ。緊張してるんですわぁ」
カヤノ 「へ、へえ。それで?」
ハヤアキ 「ず、ず、ずぇも…小せぇ頃からいんろいろすこまれて来ましたぁ。
       な、な、うんで……仕事は任せてもらってぇ、問題ないかぁとぉ…」
シギ 「…うーむ。どうするかな」
イザナ 「……」
ロク 「それじゃあ、見てもらったらいいんですよ。この子がどれだけこの家に役立てるかを」
トルスタ 「(スープを飲み終わって)うんぐ、西の国に引っ越すのだから、そうねぇ。
      そちらで流行しているパフェとやらを完璧につくってみせたら、あたしの命によって合格にしたげる!」
ロク 「うっしゃぁ!さすがトルスタお嬢!話を理解してらっしゃる〜」
カヤノ 「トルスタ様がそうおっしゃるなら仕方ない。
     キッチンを開けるからささささぁーっと用意するのよ。[さめ]のようにしなやかに的確に!」
ミチラ 「はーい。それじゃあ、私、鍵開けてきますね〜!おパフェ楽しみぃぃ」
ハヤアキ 「い、い、いえっいえっ、イエッザァー!ひゃっはーぃ!」
イザナ 「引越しは…間に合うのか…」
シギ 「まあ、荷造りする必要がないから、問題はないぞ」
イザナ 「は。明日…なのに?」
ロク 「だってぇ、あれだぜ?この屋敷、物凄い勢いで走るんだぜ?…し・か・も、パカパカいう!」
イザナ 「なん…だって……生まれてから一度もそんなこと聞かされていなかったんだが…」
ロク 「まぁ、何。おまえのお母さん?パカパカが嫌いでここから出ちゃったらしいし、知らないのも無理もないだろ」
イザナ 「そういう問題かよ……」


◆昼過ぎ イザナのお屋敷前

ダゴン 「さて、あと契約を結んでない次期成人はここの……あー、イザナか。
     さっき、こやつを追っかけていた時についでに済ませておくべきだったな」
ヘザ 「申し訳ございません。見落としておりました」
ダゴン 「いやいや、ヘザ、お前のせいではない。とにかく、今日中に契約を結べば良いだけの話……」
ウズメ 「それでさー、この縄。いつ外してくれるってーの?朝からずっとこのままで…(あくび)おいら眠いんですけど」
ヘザ 「くっ、何度言ったらわかる。あの手この手で逃げ出そうとしたのは貴様ではないか」
ウズメ 「知らねーよ。山が、風が、おいらを呼んでるってゆーねっ。だから勝手においらを旅に駆りだてるってーな!」
ヘザ 「(剣をウズメに向けて)知らぬ!」
ウズメ 「うっ。(小さな声で)……武器も権力も使いたい放題かい」
ダゴン 「では、呼び出すぞ。おい、イザナはいるかイザナは!」

――お屋敷内が騒がしい

ダゴン 「ぬ。なんだか室内が騒がしいようだが…」
ウズメ 「…え、ちょ、なんだこれ……うげげ!」
ヘザ 「これは…屋敷か!?」
ダゴン 「動いておる…。――ぬぁっ!」
ウズメ 「うわあっ!」
ヘザ 「……!」

――吹き飛ばされるダゴン・ヘザ・ウズメ。

ウズメ 「てててて……。っと、縄は…取れてねーのか…。って、ぬぉぁっ、またかよ。あれ、お屋敷頑丈だな、おい」
ヘザ 「(呆然とするが、我に返り)今、確かに飛び上がりましたよね、このお屋敷…」
ダゴン 「老眼のせいかと思ったが…間違いあるまい。この屋敷、からくりでも仕込んでおるのか。
     いや、いや、呆然としている場合ではないな。屋敷の動きが止まった今、早々にイザナを連れ出せ」
ヘザ 「はい、少々お待ちを」


◆5分後 イザナのお屋敷前

ウズメ 「早!お姉さん早すぎだってーの!」
ヘザ 「仕事は手短に確実にやるものだ。これくらい容易い。もっとも、気絶している軟弱男を連れ出す程度のことだったが」
ダゴン 「よくやった。すぐに契約書に判……さっきの拍子で落としたか…。仕方ない、こやつの手形をここに」
ヘザ 「はい」
ウズメ 「あちゃー、気絶してるのか。可哀想にこいつも強制参加かぁ」
ダゴン 「これはこの国で生きる者のしきたり。拒む者には自由などない。
     私もヘザもこの国に生まれ育った者は全員、成人の儀式に参加しておる。だからおまえも逃れることはできない」
ヘザ 「契約が終わってもなお、屁理屈叩くなら、いっその事、貴様を打ち首にしてやるわ」
ウズメ 「そ、それは勘弁…」
ヘザ 「あと、ついでにリストに載っている最後の1人を見つけました。名はハヤアキかと」
ウズメ 「…わ、こいつ、同じ集落の奴……なんでお屋敷から出てきてんの」
ダゴン 「おお、よくやった。これで全員だな。この気絶した二人と、この口うるさい奴、一緒に儀式の間にぶちこんでおけ」
ヘザ 「はい。仰せのままに」
ウズメ 「(くそー、成人の儀式なんてやりたくねーっての!)」


◆翌日 成人の儀式当日 儀式会場

ミチラ 「紅茶がおいしい季節になりましたね〜」
トルスタ 「ねー。でも、今日の紅茶、薄いんだけどぉ」
ミチラ 「え、ええっ。薄いですかね〜、うーん」
トルスタ 「ちぇっ。ん、あ……お腹が空いてぇ……、くわっ!」
ミチラ 「ひゃっ!く、くくくく首が絞まりますトルスタちゃーん」
シギ 「しまったなぁ…。まさかキッチンに隠しておいたお屋敷発進スイッチを押してしまうとは……」
カヤノ 「そんなところに隠していらっしゃったなんて…。
     そのようなことは私めがハウスキーパーに就いた時に伝えてくださっておれば良かったですのに」
シギ 「いやぁ、ついうっかりしてしまってなぁ。だーっはっはっはっは」
ロク 「そんでもって、まさかの成人の儀式、参加ですねえ」
シギ 「うっ。そ、そうだな……イザナにはこの儀式逃れて欲しかったんだがなぁ。嫌だなぁ……せっかくの息子なのにな…」
カヤノ 「契約されてしまったものは仕方がありません……。
      [わず]かな可能性を…ええ、ほんの少しでも存在している可能性を。信じましょう、ご主人様!」
トルスタ 「ぬ。信じるお菓子は救われるです〜お父様」
ミチラ 「(遠くの方から)痛いですぅ〜」
シギ 「そう、そうだ。私の息子だ。大切に育て来たからこそ、乗り越えられるはずだ…。
    信じて…みるか!だーっはっはっはっはっはっは…ケホケホ!なんだが胃が痛くなってきたな」
カヤノ 「(涙ながらに)ご主人様ぁぁぁぁ!お気を確かにぃぃぃ!痛みなど、痛みなど、私めが代わって耐えますわぁぁぁぁ!」
ロク 「ところで、そんなに恐ろしいものなの?成人の儀式ってやつ」
カヤノ 「――って、貴方、今なんておっしゃって?」
ロク 「いや、だから成人の儀式ってどんなのかなぁって」
トルスタ 「気になるよね〜。私も3年後参加しないといけないから見てみたいなあ」
ロク 「だよなぁ。俺、もう関係ねぇけどねー」
カヤノ 「待ちなさい」
ロク 「ん?」
カヤノ 「ロク、今年で何歳におなりになって?」
ロク 「もうすぐ24ですねぇ。……あんれぇ?」
トルスタ 「とっくの昔に成人の儀式終わってるよ〜ロクは」
ミチラ 「けほっ、けほっ。ですよねー。じゃあ、きっとよく覚えていらっしゃらないんですよ」
ロク 「そんじゃあ、そーいうことでぇ…」
カヤノ 「黙らっしゃい!貴方、もしや成人の儀式を受けていないなんてことはないでしょうね」
ロク 「受けた…はずなんですけどねえー俺、記憶にまったくなくてぇ」
シギ 「あー。ロクは天然痘にかかっていたな」
カヤノ 「まぁ、そうでしたの??」
シギ 「そうだ。その時、メイドにうつると危険だから[しばら][いとま]を与えていたからな。
    それに、カヤノ、お前は西南の国へ使いに出していたのを覚えている」
カヤノ 「仕えてもうすぐ20年。知らされていないことがあっただなんて……私、私、ハウスキーパーでいる資格など…っ!」
シギ 「まあまあ、落ち着け。とりあえず、今はイザナが心配なんだ…。儀式を見に行くぞ!」
ロク 「あり?俺、大丈夫なんすかね。まぁいいや。行きましょうご主人〜」
カヤノ 「(泣きながら)はい〜ご主人様〜」
トルスタ 「ああっ。皆早いですわよぅ〜って、へっ?」
ミチラ 「ん?何ですか?…あれ、貴女は」
ヘザ 「お前たちはここでストップだ」
ミチラ 「えーっ、駄目なんですか?」
トルスタ 「今年も駄目なのぉ?ケチぃー」
ヘザ 「駄目も何も、お前たちは未成年だろ。だから会場に入ることは許さん。大人しくここで待つんだな」
ミチラ 「残念です〜」
トルスタ 「ちぇっ」


ダゴン 「これより、成人の儀式を執り行う。えー、本年度の参加者は121名。
     性別体格関係なく平等に儀式に参加してもらうから、手を抜かないように。もし、手を抜いたなら地獄を見ると思え!」
ハヤアキ 「(笑顔で)……こここここ、怖いどすー」
ウズメ 「お前はホントに怖がってんの?」
ハヤアキ 「お、おおおお、おう、のう!」
ウズメ 「――ハヤアキ、相変わらず訳わかんねぇってーの。ん?あれ?屋敷の坊っちゃんじゃん?」
イザナ 「坊っちゃん言うな。気持ち悪い…」
ウズメ 「悪りぃなぁ〜。名前なんてーの?」
イザナ 「…イザナ」
ウズメ 「イザナねー。わかりやしたーっと」
ダゴン 「今年の儀式で課題とするものは、炎巡り。炎に立ち向かう勇気、知恵を見せていただきたく思っている。
     方法は至って単純なものだが、例年と同様…猛獣と一緒にこなしてもらうからな」
ハヤアキ 「猛獣……だべかぁ、怖かねぇ怖かねぇ」
イザナ 「ふむ。猛獣か…。ライオンか?虎か?」
ウズメ 「なんでお前らそんなに冷静なんだよ…おいら、猛獣なんて嫌だってーの…」
ダゴン 「おほん。それが済んだ者から、成人として認めていこう。
     しかし、己の考え、望んでいる通りの成人になれると思ったら大間違いだ。特に、そうだな、そこのお前」
イザナ 「ん、私が何か…」
ダゴン 「お前の父親なんて、見事に失敗しおった一例だからな」
シギ 「……!」
イザナ 「失敗って……。いや、父さんは何不自由なく健康体だ!それにどこをどう見たって成人している!違いますか?」
ダゴン 「(嘲笑うように)そうだといいがな」
イザナ 「……」
ダゴン 「ふん。では、時間が迫っているから早々に始めるか。よし、おまえたち、先頭から順に前へ進め!!そら、いけぇ!」

―― 一斉に走り出す参加者。出遅れるウズメ。

ウズメ 「順番通りじゃないのかぁ!?皆、あんなに血相変えてまじでやばいってぇ」
ハヤアキ 「(混乱したせいかまともになって)……僕はぁ、立派な大人になってやるんです!他の参加者などぉ負けません!」
イザナ 「こいつも本気か。手は抜けないな」
ウズメ 「ああっ、ちょっとぉ!」
ヘザ 「まずは第一の課題だ!今ちょうど向かっている先にマグマがあるだろう。
    そこにはサポーターとなる貴様らの猛獣が潜んでいるが、それを上手く呼び起こして向こう岸に渡れ
    制限時間はないが戸惑っている者に情けはかけるな。自分の身一つで乗り越えろ!以上!」
ハヤアキ 「燃えばいいんだわぁ、燃えればぁ。さすれば、猛獣禽獣珍獣[もうじゅうきんじゅうちんじゅう]なんてことねぇわぁ」
ウズメ 「ひぇぇぇ、だから、何なんだってーの!」
ロク 「(双眼鏡を覗きながら)やぁ、なんか、めんどーな事、してますね」
シギ 「考えている奴のセンスが悪いから、仕方ない」
カヤノ 「例年このようなものです。私が参加した際も酷いものでした」
ロク 「例えば?」
カヤノ 「ドラゴンと一対一で戦うっていうのがあったわ」
ロク 「ドラゴンて…。んな、架空の生き物相手にしてどうするんですか」
カヤノ 「いや、それがいたのよ、ドラゴン。当時恐怖で動けなくなりそうだったけど、なんとか土鍋片手に戦って…大変だったわ」
ロク 「土鍋…」
シギ 「当時、近所で売れていたなぁ、なんでも調理できる優れもの、なんて言ってなぁ」
カヤノ 「でしたよね〜」
ロク 「(という事は、ドラゴンを調理したってことで間違いないのか…それ…)」
シギ 「――おっ!」
ロク 「ん?」
カヤノ 「イザナ様、通過ですわ!」
ロク 「おおお、すげぇ」
ヘザ 「よし、イザナ通過だ」
イザナ 「はい」
ダゴン 「最初の課題は簡単だったろう。通過したものには第二の課題を与えよう。
     次は頭を使うことが何よりも重要。
     そこのどう見ても人には駆け上れない直角の炎山[えんざん]の断片があるが、そこを登ってもらおう。
     体力自慢の者はそのまま登ってもいいが、そう簡単にはいかないので、覚悟しておけ」
ハヤアキ 「さっきのは簡単でしたがぁ、次のはむずがじぃ感じですねぇ」
イザナ 「そうだな」
ウズメ 「か、簡単?だったのか?おいら太もも火傷するわ、なんわでボロボロだったんだけど…って」

――猛獣に思いっきり飛ばされて、小山に登ったハヤアキ

ハヤアキ 「なんだ。脳みそつこうことなかったぁ」
ウズメ 「ハヤアキ、お前、今、すんごい飛ばされ方したのに、なんで何事もなかったかのように着地してるんだってーの…」
イザナ 「これは…サポーターとの意思疎通か。なるほど」
ウズメ 「意思疎通?」
イザナ 「…ああ、この課題は頭を使う課題ではなく、広い意味での頭を"使う"課題らしい」
ウズメ 「頭突きでもしろってか」
イザナ 「は」
ウズメ 「ふん、馬鹿にすんなぁ」
イザナ 「さて、俺も行くか」
ウズメ 「はーっ。おいらの周りは超人ばっかかい」
ヘザ 「さて、最後の課題だ。心して聞け」
ダゴン 「始めに私が、炎に立ち向かう勇気、知恵を見せてもらうといったが、ここからは総合力を問う。
     内容は空中炎[くぐ]り。最初の課題のサポーターに手伝ってもらうもよし、完全に自力で潜ってもよかろう。さ、始め!」


ミチラ 「トルスタちゃん…どうですか、見えますかー?」
トルスタ 「なんか地獄絵図みたいなのか見えるぅ」
ミチラ 「え?じ、地獄ですか??はぁ、やっぱり成人の儀式って怖いんですね〜」
トルスタ 「うーん?でも、そうでもなさそうよ〜」
ミチラ 「じ、地獄絵図なのに、ですか?」
トルスタ 「ん?――――って、お、お兄ちゃんが!!」
ミチラ 「イザナさんが?どうされたのですか!?」
トルスタ 「いいい、行くわよ!でも…ここどうやって忍び込もう」
ミチラ 「ここはミチラにお任せくださいです〜!そいやぁぁぁぁ!」
トルスタ 「あぁ、そっか。ミチラが本気になれば見張りなんて突破できるのね〜。さ、あたしも行くわよ〜っ」


ハヤアキ 「ぼ、ぼぼ、坊っちゃんさ〜ん!」
イザナ 「大丈夫だ。(……それにしても難しいな。火は熱いし、皮膚がジリジリいってるし…)」
ウズメ 「見てるとおいらまで怖くなってくるってーの…。
     確かに今は上手くいってるけど、危なっかしくてしょうがない……。無理すんなよー!」
イザナ 「ああ。時間かければどうにかなりそうだ」
ウズメ 「本当にあれ大丈夫なのかぁ〜。やりたくないけど、おいらが最後とか無理だって…」
ハヤアキ 「ぼくもいくですさ〜」
ウズメ 「おまえ、もうあの火の中に入る気になったのかー?冗談だろ…」


ヘザ 「(なんだ…?――――あれはさっきの屋敷の餓鬼ども…)」
ダゴン 「どうした、ヘザ。余所見をしては役人は務まら……ぎ、儀式会場が……」
ハヤアキ 「わわわっ。ゆ、揺れとるどす!ちぃと、やめとちゃす…」
ウズメ 「おお、やめとけ、やめとけ。地震が起こるなんて、とんでもなく縁起の悪い日だってーの。
     っておい!イザナ!何バランス崩してるんだ、戻るか進むかしろぉ…!」
イザナ 「戻れるはずがないだろ!くそっ、このままじゃ、真っ逆さまに落ちてしまう…」
トルスタ 「おーにーいーちゃぁーん!」
イザナ 「!お、おまえ何故ここに」
ミチラ 「新米メイドではありますが、イザナ様に仕えた以上、全身全霊を持って護らせていただきますー!!」

――トルスタとミチラが物凄い勢いでやってくる

イザナ 「…み、ミチラ……ぬぁっ!しまっ…」
ハヤアキ 「あ゛!イザナさっ!ハリーアップ!」
ウズメ 「馬鹿!まだだ!…あぁ、もっとやばいことになったってーの!」
ダゴン 「罰だ。あーこれは罰なのだ。未成年など連れ込みおって」
ヘザ 「…くっ。阿呆が……」
イザナ 「―――!」
ロク 「…イザナが落ちた!!」
カヤノ 「(号泣)イザナ様ぁぁぁ!!ミチラあんた、助けなさいよ〜!!」
シギ 「(絶句)」
ハヤアキ 「………助けやしょう!じっちゃぁが言っとったんですよぉ、ギャップゥには立ち向かえってぇ」
ウズメ 「はっ!?ちょっとお前、今日判断おかしいぞ。そこに飛び込むなって……あ?一日一善?違うってーの
     ……いやいやいや、おいらまで引きずるな――!(ハヤアキと炎の向こうに消えていく)」


◆夜 儀式会場

ロク 「えらいことになりましたねぇ」
カヤノ 「(涙拭きながら)儀式会場はズタズタ、参加者もほとんど生きているのか分からないだなんて……ご主人様…」
シギ 「……こういうことになるから、私は参加させたくなかったのだがな」
ロク 「イザナは…生きてるんでしょうか?」
シギ 「……ああ、イザナなら大丈夫だ。剣術、武術、学問…
    どの分野も最適で最上の教育を施してきたはずだからな……ただ……」
ロク 「ただ?」
シギ 「ヴィジュアルが…」
ロク 「ヴィジュアル…?」
ミチラ 「はふー…」
トルスタ 「つ、疲れたよう…」
カヤノ 「トルスタ様…。はっ、ミチラ……ああ、なんてこと…貴女はなんてことをしてくれたのっ!」
ミチラ 「へー?」
カヤノ 「へーじゃありません!イザナ様の邪魔をしたのは貴女でありませんかぁっ」
ミチラ 「いえ、イザナさんを助けようと思って〜、それでぇ〜……ん?」
トルスタ 「あたしもあんまり覚えてないや…。ああっ、でも助けようとしたのは事実だよ、カヤノ!」
カヤノ 「です…が…」

――瓦礫の向こうからイザナらが戻ってくる

ロク 「イザナ…!それにハヤアキ君たち…!良かったじゃないですか〜ご主人!」
カヤノ 「イザナ様ぁぁぁぁ!!」
シギ 「………」
トルスタ 「おにぃちゃーん!(お腹がなる)……お腹が空いたらいつも通り抱きつきたくなってきたぁっ、とりゃぁ(イザナに抱きつく)」
イザナ 「……」
ハヤアキ 「……」
ウズメ 「……」
トルスタ 「………ぬ?あれあれ?おっかしいぞぉ」
ミチラ 「どうしたのですか?」
トルスタ 「なんていうか…その…お兄ちゃん。柔らかいんだけどぉ」
ミチラ 「柔らかい?」
トルスタ 「うーん、そうなんだよね。気のせいかなぁ?強いて言えば、近所のあの子とおんなじ感触が…あ!ちょっと待って!」
イザナ 「(声が上手く出ない風に)や、やめろ!!」
ロク 「?イザナらしくないな〜。どうした?」
トルスタ 「……おに……いえ、今日からお姉様ですわっ!!」
イザナ 「……(嫌がる)」
ロクミチラ 「な、なぜ?」
シギ 「隠しようがなくなったから言うが、実は…な。
    成人の儀式で失敗したものの一部は、異性化したり、成長を早めたり、逆に退化させられたりといった試練を与えられるのだ。
    イザナは、まだ声は女性にはなっていないが、外部から徐々に変化していくだろう」
ミチラ 「試練って……!」
カヤノ 「ああ、女性になってしまいそうでも、無事ですから何よりですわっ」
シギ 「おかげでこの国の大半が実年齢とは違っていたり、生まれた時の性別とは違っているのだ」
ロク 「お、恐ろしいですねえ、それ。猛獣なんかと戦うより――」
ヘザ 「(突然現れて)ちなみにシギは元々女だ」
ロク 「おわっ!…………ご、ご主人がぁ!??」
イザナ 「はぁ!?」
トルスタミチラ 「えー!?」
ヘザ 「私が未成年の時は、男だと疑っていなかったが、役人になってから様々な資料を扱うことが増えてな。
    その時に元々女だったということを知ったのだ」
シギ 「……なぜ今それをバラす」
ヘザ 「良いではないか、これも機会だと思え」
イザナ 「………ということはお前も男だったのか」
ヘザ 「なっ!何を言う。私は……」
イザナ 「役人ともあろうお方が、人のプライバシーをずけずけと吐露[とろ]するなど
     欲望、怒り、負の執着がなければ、わざわざそのようなことをする必要もないだろう」
ヘザ 「チッ」
ハヤアキ 「…お役人なんぞぉ、信用ならんだぁ。僕ぁ、急に肉体老化でぇ足腰が痛むんですがぁ」
ウズメ 「…そうだってーの。俺だって、時間が戻るかのように変な感じになってきちまったし、どうにかならないんですかぁ」
ヘザ 「ぶつぶつぶつぶつ、やかましい!私も被害者だぞ!?」
ダゴン 「ほぅ、被害者、ねぇ?…いやぁ、本日の成人の儀式、皆のものご苦労であったよ…」
ヘザ 「タゴン…様!これは…その」
ダゴン 「言い訳など聞き苦しい。神聖なる儀式に失敗したおまえが何を言う。役人になるとき、何を約束した」
ヘザ 「……」
イザナ 「あの、儀式主…失礼ですが、これはいったい何なのですか?成人になるために無理難題を投げかけて
     私たちの年代だけでなく、親の代よりもずっと前からこのような仕打ちを受けさせるなんて。
     貴方もこのお役人のように、何か執着されているので?」
ダゴン 「違う。執着など、そんな馬鹿馬鹿しい!」
イザナ 「……」
シギ 「…では、なんですか。代々受け継がれてきた儀式だからその通りにやってるとおっしゃるのですか」
ダゴン 「うるさいな。ヘザ、こやつらを連れて行け」
ヘザ 「……それは、もうできません」
ダゴン 「なぜだ」
ヘザ 「私からの条件も飲んでいただけそうにないので、本日を持って『首切り』ということで…」
ダゴン 「……くっくっくっく、アーッハッハッハッハッハ」
ダゴン以外 「?」
ダゴン 「男に戻ることも諦めたか、ヘザ。それに本国一の美女と言われたシギさえも女に戻ろうとしない。
     人は欲望に溺れるものではないのか、なんだ、そうだったのか」
イザナ 「何をおっしゃりたいのですか」
ダゴン 「私は、人が愚かだと知っている。ゆえに、愚かな様子を見ていたいのだ。
     …それはまさしく私の極上の楽しみ、そして使命だ。だからこそ儀式を絶やさないために生きている」
シギ 「貴方は変だ。今何が変なのか見当もつかないだろうが、非常に変だ。
    それに私は男になったことを一度も愚かだと思ったことはない。
    なぜなら、これも人生で、成人という新たな道だと考えたからだ」
ダゴン 「……クソが。これも愚かということか…(シギの迫力に負け後ずさり)」
イザナ 「ロク、ウズメ、ハヤアキ、カヤノ、そして"母さん"!こいつを囲め!」
ロクウズメハヤアキカヤノシギ 「おう!(わかりました!)」

――慌てて逃げようとするダゴン

イザナ 「逃がすものか!いけ、ミチラ、トルスタ!」
ミチラ 「逃がしませんよぉぉぉぉ!てぃぁ!」
ダゴン 「うがぁっ!」
ミチラ 「そして、とどめにぃ!トルスタちゃん!」
トルスタ 「だーきーつーきーの刑だぁぁぁぁ!」
ダゴン 「ぐあぁぁぁぁ―――――――――!」


◆夕方 国のはずれ

カヤノ 「あぁっ、まるで私たち、姫を守る騎士のようでしたわね」
トルスタ 「うんうん!」
ミチラ 「そうそう、女性になったせいかますます守らなければって気持ちになっちゃいましたよぉ」
トルスタ 「なんで、最初から女の子で生まれなかったんだろうねーっ」
カヤノミチラ 「ですよですよぉ」
イザナ 「…おまえら、ちょっと黙れ。
     ……母さん、結局、儀式を行なう一族そのものがマインドコントロールされていたということはわかったが
     原因そのものは分からなかったな」
シギ 「そうだな…私はともかく、おまえたちも体が戻らなかった」
ロク 「まぁ、原因がわかんなくても、国そのものには大きな打撃がないし、いいんじゃね?」
イザナ 「……国か。とりあえず、どうする?この国に居ても、過ごしにくいだろうし…」
シギ 「ああ。今度こそ引越しするよ。もちろん、この子らも連れて」
ハヤアキ 「ぼ、ぼくもですかぁ、嬉しいとです!」
ウズメ 「おおお、おいらまでも!なんと優しい!」
ヘザ 「………く。せ、世話になる」
シギ 「珍しく素直だな、ヘザ」
イザナ 「あの家また動かす気なのか…」
シギ 「まぁ。頭痛くなるかもしれんが、我慢してくれ。あと…出発する前に一つ伝えなければいけないことがあってな…」
イザナ 「…何?まだ巨額のへそくりがあったとかなら、何度も聞いて…」
シギ 「実は、ドサクサに紛れて気にならなかっただろうが、カヤノがおまえの父さんなんだ」
イザナ 「…………は?――はぁぁ!?あ、あいつ…じゃなかった、カヤノは全く親としての威厳がないじゃないか!今度こそ嘘だろう」
シギ 「これが、カヤノの、いやおまえの"父さん"の当時の写真だ」
イザナ 「……………し、心臓がいくらあっても足りん…」
カヤノ 「(気づかないまま)へぇっ?」




end of the story.

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